John Doe(短編小説)

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赤い星のクリスマスツリー


僕がコネチカットの住宅街で生まれた年、一つの超大国が15の共和国に分裂して、崩壊した。クリスマスは悲しい日だったのさ。だけど、家族のみんなはクリスマスの日、つまりキリストの誕生日に生まれた僕を『神聖な子ども』としてそれはもう素敵な名前をつけてくれたよ。

「もう共産主義は終わりだ!」とゴルバチョフが嘆いて、ソ連最高会議幹部所を立ち去ったかどうかは定かじゃない。でも、ほとんどのアメリカ人や自由主義経済の国民は「ああ、ようやく冷戦が終わったんだな」と胸を撫で下ろして、クリスマスを祝ったことだろう。

だけど、僕が10歳になった九月のことさ。コネチカットのすぐ近くのニューヨークで、二つのビルにハイジャックされた飛行機が突っ込んだ。父さんも母さんも「パールハーバーだ、世界戦争だ」とブラウン管テレビの画面の中で炎上する二つのビルを観て叫んでいた。

それから、今度はテロとの戦いの時代が始まったことは、言うまでもない。アメリカには、常に『敵』がいて、なんだかんだ常に戦争してる。それで僕はどうしたかって。大学を中退した後海兵隊に入隊してイラクへ向かった。そこでタリバンと戦ったよ。フロリダ出身のマイクとは戦友になった。彼、いいヤツだった。だけど、胸に赤い星のバッジをつけたタリバン兵士にAKライフルで射殺されてしまった。

そんなことがあって、僕はもう赤い星がトラウマになっちまった。帰国の許可が降りたので、またコネチカットの自宅に戻ったけど、戦争後遺症というヤツさ。夜中に叫んだりして家族を困らせたから、ニューヨークに独り暮らしすることになった。

ああ、そうだ。赤い星についてだけど、あれ、共産主義のシンボルなんだってさ。ニューヨークの昔ながらの住宅街はクリスマスの飾り付けで忙しそうにしてたけど、そういや僕が借りている家の近所のクリスマスツリーのてっぺんの星が赤色だったな。
なんで金や黄じゃなくて赤にしたんだろうな。ソ連崩壊を皮肉ったのかもしれないし、飾り付けたヤツがただ無神経なだけだったのかもしれない。

僕はそのクリスマスツリーが不愉快で仕方ない。

9/17/2023, 7:22:45 AM