24

Open App

▶112.「夜空を駆ける」
111.「ひそかな想い」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

イレフスト国、元対フランタ技術局付近の湖のほとりにて

「そこの男、待て」
【雪景色の中、】人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬にそう声を掛けてきたのは第三隊隊長ミナトと名乗る男だった。イレフスト国の重要機密を盗んだ疑いがあるらしい。


「こんな夜更けに話しかけてきて重要機密とは、どういうことだろうか?私には心当たりがない」


イレフスト国の、重要機密。
当てはまるとすればナナホシのことだろう。

「嫌ダ。僕、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ト離レタクナイ」

ナナホシも、それが分かったのだろう。
人形にだけ聞こえるように小さく意思表明をしてきた。


人形は、人間に危害を加えないよう、嘘をつくことに対しては制限を掛けられている。そのため慎重に言葉を選んで発言する必要がある。

幸い、ナナホシについては、国の機密ではなく個人的な秘密であると知っているため、言葉を返すのは容易であった。

だが。

「ほう?本当にそうかね。私は知っているぞ。お前が飲まず食わずで昼も夜も歩き続けていることをな。人間としては有り得ないことだ」

「……」

最早人形にできることは黙っていることだけだった。
じりじりと人間たちが迫ってくる。後ろの茂みに逃げることも考えたが、その奥から草をかき分ける音が、人形の耳には聞こえていた。

このままでは、囲まれる。

表情を作ることも放棄して、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は切り抜ける方法を探していた。


ふと、水の匂いを届けていた風が止んだ。

【街道を塞ぐように立つ軍から前方に目線を移せば、
雪によって白くなった中で、ぽっかりと闇色の大穴が空いている。

それは施設までの直線を遮って横たわる湖だ。

街道を横断して少し先にある湖は、】
さざなみも静まり、その湖面に月と星を映していた。

人形は目を閉じ、システムのスイッチを切り替える。

「ナナホシ」
「ウン」
「しっかり掴まっているんだよ」
「ダイジョウブ、デキルヨ」
「よし、走るぞ」


「っ、総員確保!」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬の雰囲気が変化したのに気づいたか、隊長が慌てて号令を掛ける。
しかし時すでに遅く、目を開けた‪✕‬‪✕‬‪✕‬は走り始めていた。

掴みかかってくる隊員たちが、ゆっくり動いて見える。


人間に馴染むように。人間から親しんでもらえるように。
元々の性能を大幅に制限し、人形は過ごしている。
そこにあるのは博士の備えか浪漫か。

制限を解除した人形は、隊員を傷つけぬようそっと躱して、湖に向かって加速していく。

肩透かしをくらった隊員たちはたたらを踏んで、ある者はそのまま転んだ。
いち早く体勢を直した隊長は、‪✕‬‪✕‬‪✕‬の行った先、すなわち己の背後にあった湖を素早く振り返った。


光源のない湖は素直に星々を映していた。
まるで満天の星空がもう一つあるようであった。

彼の走ったところから波紋が生まれ、湖面を乱す。
それは夜空を駆けるようであった。

2/22/2025, 9:29:32 AM