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お題:閉ざされた日記

母が亡くなった、妹から母の訃報聞いた。
しかし私は葬式にも出なかった。

 母とは絶縁した、「家の敷地跨ぐなと言われた」とあの日からもう母とは金輪際会うこともないと決めていた。
大学の在学中に将来のことで母と揉めた。
そして、普段ケンカすることもなかった母と揉めた。
お互いに一歩も引かなかった。
 私は料理人になりたかった。
しかし、母は大学卒業後は、大手企業に入って欲しかった。
そして、絶縁された。

大学は経営学だったが、料理人なりたいと思ったのはバイト先で料理の素晴らしさ知ったからだ。
 大学卒業後は、バイト先で何年も修行をして漸く大将から独り立ちのお墨付きを貰った。

 それから独り立ち後は悪戦苦闘の連続だった。
経営は中々上手くいかない事数年が続いた。
だが、地道に続けていると少しずつだが美味しい店だと言われるようになった。

テレビに店が取り上げられるようになった頃だった。
 妹経由で母がガンであることを聞いた。
ステージ3らしいことを聞きいた。
妹の口座に母の治療代を振込むぐらいしか私には出来なかった。
 父を小学生の頃亡くし、それから女で一つ私達を育てた母に私ができるのはそれぐらいだった。
妹から母に会ってあげてくれとは聞いた。
けれど私は母に比定されるのが怖くて、死ぬときですら行けなかった。
そして母が亡くなった。

 私は母に恨まれていたのだろうと思いながら、毎日生きていた。
そんなある日のことだった。
 妹から「実家に帰ってきてほしい」と連絡があった。
私は悩みに悩んだ末、店休日の日に実家に戻ることにした。
 実家に帰ると、私が出ていったあの日から年月が経っているの実感した。
玄関でドアを開けるのを躊躇っていると、妹がドアを開け、「早く入りなよと」一言言うと奥に戻って行った。
妹のいつも通りの対応に私は少しだけ冷静になった。
妹からは母の葬式にも出なかった事、丸投げしたことに文句を言われても仕方ないと思っていたからだ。

 私は意を決して家の中に入り茶の間行くと、妹がお茶と数冊の日記帳を机に置いて待っていった。
「兄貴にはこの日記帳読んでほしくて」
そして妹はそう言うと口を噤んでしまった。

 私は日記帳を読むことにした。
どうやら日記は母のものだった。
最初の一冊を読んでみると、私と絶縁を口にしてしまったことへの後悔と謝罪が書かれていた。
 何気ない日常も書かれてはいた、けれど書く内容は私の事や妹たちの事が多かった。
そして、私の経営する飲食店がテレビにでた日のことも書かれていた。
とっても嬉しい、元気そうでよかったと書かれていた。
病気で書けなくなるまで私の達事を書いていた。

 読み終えた時に妹がポツリと言った。
「その日記帳誰にも見せなかったの、書いてるのは知ってたけど、どこにあるのか分からなくて、たまたま見つけたの」

 母は寡黙な人だった、思えば絶縁する時がよく喋ったぐらいの人だ。
「言いたいことあるなら書くんじゃなくて直接言ってくれたらよかったのに」

 私は母が訃報聞いた時でさえ涙は出なかったのに今になって涙が出てきた。

 閉ざされた日記を通して母の愛を知るなんて思わなかった。
お互いに余りにすれ違って言葉足りずだった。
 私もつまらない意地なんかをはらなければよかった。
涙が止めどなく出てとまらなかった。


1/19/2024, 8:13:40 AM