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視線の先には…

カクテルのテキーラサンライズのような美しい夕陽が、夜と溶け合い始めた頃の空に、響く。

胸を震わせる大きな轟は、まるで天空の父が子供達の為に大きなフライパンで、ポップコーンを作っているのかと思える爆音のようだ。

今年も、始まった…夏の夜の花火。

これまで、数え切れない程の花火を、友達、仕事仲間、彼、様々な人、時に、独りで見てきた。

私には、遠くの花火を見る時に聞こえてくるメロディがある。

『別れる事は辛いけど、仕方がないんだ君の為、別れに星影のワルツを歌おう…』千昌夫の星影のワルツをハーモニカで演奏されたメロディだ。

数年前に亡くなった父が、好んで演奏していた曲だ。

照れ屋で不器用で言葉が少ない父だったが、お願いすると、少し照れて演奏してくれた思い出がある。

猛暑の夏に、数日前は元気だったはずの父が、突然吐血して逝ってしまった。

亡くなった翌日に、いつも夏になると全国各地で催された花火大会の中で、よりすぐりの動画を送ってくれる友人が、豪華で見事な花火を寄せてくれていた。

その友人は、私に起こった突然の悲報を知らずにいつものように、ただ、送ってくれただけ。

突然の死に、気を張ってあれもこれも…と手配をして全てが終わった後に、その花火の動画を夜、独りで見た。

音も激しく、美しく、まるでその場にいるような躍動感があり、喪服を着たまま嗚咽した。

何度も、何度も再生して父を想う時、すーっとあのハーモニカが私の中に流れ込んできた。

あの歌の最後のほうに『さよならなんてどうしても、言えないだろうな泣くだろな…遠くで祈ろう幸せを…今夜も星が降るようだ』というフレーズがある。

しばらく、泣かない日はないだろうなと思った。
日があるうちは、笑って過ごそう!
夜だけは、気を緩めて泣いてもいいよね…と自分を許した。

今はもう、夜な夜な泣くことはないけれど、つい夏の夜空に轟くドドォーンパラパラ…の花火を見ると、蘇るあのメロディは、多分続くのだと思う。

私の視線の先には、愛おしく思える世界が、広がっている…

生きているからこそ、感じられる世界をもっと楽しんでしっかり見ようと思う…先に逝ってしまった父や大切な人達に逢う日まで…




*読んで下さり ありがとうございます*


7/19/2023, 12:34:56 PM