望月

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《冬は一緒に》

「空気が冷たいとさぁ、なんだか寂しくならない?」
そう言ったのは、まだ私達が中学生だった頃。
茜色の空に背を向けて、まだ青い空を目指して並んで歩いていた帰り道のこと。
「……まぁ、なんとなく、わかるかも。寒いと寂しーってなるな」
同意を示してくれた彼とは、よく話すし仲がいい。今日も今日とて、一人で正門を出た私に対して、
「やーい、ぼっち」
と声を掛けてきた失礼な奴でもあるが。
まあ、そう言いつつ毎回私の隣に並んで話しかけてくる彼もまた一人なのだから同類だと思う。話しかけるにしても、ぼっち、とは言わないでほしいけど。
「ほら、特に今みたいな夕方とかさ! 家が近いとはいえ帰るときは結構寒いじゃん?」
「そりゃあな」
「だから、こういう時に誰かと話してると余計楽しく思えてくるんだよね」
「……へぇ」
曖昧な反応を示す彼に、私は笑ってしまった。いつも通り肩がぶつかるほどの距離で並んでいるのだ、若干緩んだ彼の表情はよく見える。
「……なに」
「んーん! なんでもな、ぁっにゃッ!?」
ずっと彼の方を向いて話していたせいか、ふと視線を落とすと散歩中の子犬が見え、それに驚いて身を引き変な声を上げてしまった。
幼い頃、大きな犬に追いかけられ噛まれかけたことが少しトラウマで、犬は苦手なのだ。
飼い主さんもびっくりしたと思うが、咄嗟なので許してほしい。
「ぶつかってごめん! ちょっと犬が……」
「……っ、ふは! 猫かよ、にゃーって! 声高っ」
「あーもう! 笑わないで! びっくりしたの!」
「はいはい、にゃー」
「うるさいってば!」
自分でも、そんな狙ったみたいな悲鳴を上げるとは思わなかった。凄く恥ずかしい。
照れて赤くなった頬を手で隠すようにして、私は彼に釘を刺す。
「絶対誰にも言わないでよね」
「言わないって」
「本当? 言ったら殴るから!」
「言わねーって。ほら、さっさと行かないと信号変わるけどいいのか?」
「よくない!」
 本当に腹が立つ。にやにやしている彼に軽く拳でも入れてやろうかと思ったが、信号を渡りきったらすぐに分かれ道だ。
 ふと寂しいという思いが湧き上がるが、引き止める話題も思いつかない。歩く速度を緩めることしかできないが、やはりすぐにいつも分かれる道に着いた。
「……あー、またね。ばいばい」
「ん、ばいばーい。また明日」
 また明日、そう自然と口にした彼が、眩しかった。
 今日みたいな冬の寒い日は、やっぱり誰かと話しながら下校する方が寂しくなくていい。
「……明日、委員会なんだけどなぁ」
 私と彼は別々の委員会に入っているが、こちらがタイミングを合わせれば一緒に帰れるだろう。

——一人で帰るには、冬は寂しいから。会話なんてなくとも、ただ一緒に帰れたらいいな。

12/18/2023, 12:15:20 PM