『海』
蝉が煩く鳴き、雲は白く、青空が広がっていた
あの日、君は突然姿を消した。
街の人に聞いても誰も見ていないし覚えていなかった。とても奇妙だったし、君が居た痕跡すら無くてまるでまやかしに掛かっていたのかと思うほどで。
でも確かに君は居たし、
僕はこの手で君の手を引いた。
情報もないまま1年が過ぎた。
去年と同じように蝉が煩く鳴き、雲は白く、青空が広がっていた。
僕は君を探す気分転換に海へ来ていた。
目の前にはとてもとても綺麗な青い海。
その砂浜に、ただ一人の少女が佇んでいた。
君だ、と直感がそう言った。
僕は必死になって砂を蹴った。
やっと見つけた。
「レイ!!!!」
僕の声に反応して君が振り向く。
そして、ふんわりと笑った。
「…………久しぶりだね」
第一声がそれだった。久しぶりだね、じゃないよ。こっちがどれだけ心配したか。もう二度と会えないかと思った。言いたいことを全部のみ込んで、
「うん、久しぶり」
と返した。
そして聞きたかったことを聞いた。
「街の人たち、君が消えた次の日から君そのものの記憶がなかった。君はいったい何者なの?どうして僕だけが覚えてるの?」
君は少し困った風に笑って
「…んー、海の人間?だからかな。記憶が操れるの。君が私のことを覚えてるのは、私が忘れて欲しくなかっただけ。
…まぁ、だからこそ君には辛い思いをさせたかもしれないけど」
「ほんとだよ。1年も探したんだよ。
居なくなるにしても突然、なんもなしに居なくならないでよ」
「次からは気を付ける。」
「そうして。ところで何してたの?今まで」
「海の世界に帰ってた。」
お題:《1年前》
6/16/2023, 5:27:50 PM