いろ

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【I LOVE…】

 忘れられない言葉がある。かつて私は兄の仕事を手伝って、敵国の捕虜に食事を届ける役目を果たしていた。その中の一人、人形みたいに綺麗な金の髪と青い目をした異人さんは、私が食事を運んでいくと優しい眼差しで私を見つめ、辿々しく「ありがとう」とお礼を言ってくれた。敵国の人間なんて怖くて仕方がなかったけれど、彼のことだけは嫌いじゃなかった。
 停戦を迎え、捕虜を解放する日の前日。初めてその人は自分から私へと手を伸ばした。私の手を握り込んで、いつも食事の時に彼らの神へと祈る時のように、私へと跪いた。
「I love……」
 それは彼らの国の言語で、私には上手く聞き取れなかった。そうして彼もきっと、私にその言葉の意味が伝わらないことをわかっていた。満足そうに、それでいて寂しそうに微笑んで、彼は私から手を離す。それが私が彼を見た最後だった。
 しばらくして辞書を使い、聞き取れた部分の彼の言葉を調べてみた。
 I LOVE……私は愛しています。彼が何を、誰を、愛していたのか。彼は私に何を伝えたかったのか、今となっては私にはわからない。それでも私はあの日の彼の真摯な声を、慈しむような眼差しを、今でも忘れられずにいる。

1/29/2024, 9:56:15 PM