作家志望の高校生

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残酷なくらいに美しい空だった。
もう随分長いこと歩いたような気がする。
肺の奥底から血液特有の鉄錆の匂いがこみ上げて、口内を支配している。
胸骨の真下がズキズキと痛んで、知らぬ間に息を詰めている。
それでも、歩き続けなければいけなかった。
背にかかる体重が重くて、しかし僕も必死だった。
少しでも、ほんの少しだけでも、あの炎から逃れたい。
あの戦火から少しでも離れた場所で、今晩くらいは越したかった。
目指すのは、背中に負ぶさる彼と、いつか星を見に来た小高い丘の上。
あそこならきっと、まだ戦火は及んでいない。
子供の足には些か遠かったが、そんなのも分からないくらいには必死で、酸素が足りていなかった。
ひゅうひゅうと隙間風のような嫌な音が喉から鳴って、その度激しく噎せて背に乗せた彼を落としてしまいそうになる。
子供の身体で大人の男一人を背負うのは、バランス的にも、筋力的にも辛かった。
日がとっぷり沈みきり、背後の街から聞こえていた破壊音すら一旦止むような深夜になって、ようやく僕らは丘に着いた。
彼の身体をどさりと隣に降ろして、そのまま地面にへたり込む。
戦火が見えなくなった途端、周囲は真っ暗で、星々が放つ頼りない明かりが微かに彼の輪郭だけを照らし出していた。
敵国の軍服に身を包んだ彼は、酷く青白い顔をして、胸と腹に風穴をこさえて倒れていた。
僕がそれを見つけたのはたまたまのことだったが、どうしても、どうしても棄てていくことはできなかった。
御国にとっては憎き敵国の一兵とて、僕にとっては一緒に星を数え、夜空を教えてくれた気のいい兄さんなのだ。
靴底はとうに擦り切れ、足は火傷の痕と食い込んだ小石でぐずぐずになっている。もう、明日からは移動もきっとままならない。
食料も、水も、長いこと摂っていなかった。ここが自分の終わりだと、漠然と信じられるくらいには。
彼の横に倒れ込んで、そうすると目の前にはもう、深い深い藍色をした夜空だけが広がった。
ちかちか星が瞬いて、その隙間を縫うように、流れ星が尾を引いて駆けていった。
段々霞んでいく視界の中、冷たくなって血でぬるつく彼の手をそっと握った。もう、移してやれる体温さえ僕には残っていない。
どうか、どうか願うなら、あの流れ星が叶えてくれるのなら、次は、どうか、もっと平和で、温かくて、彼と笑っていられる国に生まれたい。
流れ星が最期に瞬いて、僕はそっと瞼を閉じた。

テーマ:流れ星に願いを

4/26/2026, 7:00:33 AM