PEMO

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胸が締め付けられる。
娘のデリケートな部分に立ち入るのが怖くて、足が前に出ない。
静かに深呼吸をして、出来るだけ明るく声をかけた。
「エーミちゃん♪」
「あっお母さん!」
私よりも明るく振り返った娘の笑顔は、星空のどの星よりも眩しく輝いて見えた。
「邪魔……しちゃったかな」
「全然そんな事ない!」
「パパに聞いたんだ、ここにエミちゃんが居るって。お母さんも……いいかな?」
「本当!? 嬉しいよ、お母さんもここに居て!」
親子喧嘩なんかしたこともない。
私なんかよりも大人で、私はいつだってこの子に助けられている。
私がここに居たいと言えば、決して断ることは無い。
そんな打算も含んだ考え方に、自分で自分が嫌になる。
「……ぁ」
「あのさ」
私が話しかけるよりも早く、声を掛けられて驚いてしまう。
「結婚おめでとう」
「あ……ありがとう」
不意打ちだった。
「私さ、毎年ここでお願いしてたんだー」
えへへ、と恥ずかしそうに笑ったその視線は、満天の星空を仰ぎ見る。
「パパを幸せにしてくださいって!」
言葉が出なかった私は、絞り出すように小さく「うん」と頷いた。
「願いが叶っちゃった!」
「……うん」
「パパを選んでくれてありがとう!」
「……うん」
「ちょっと待って早い早い! 泣かないで、明日の結婚式まで涙取っておいてよ」
「明日は泣かないよ!」
くすくすと娘と笑い合う。
呼吸を整えると、娘は真っ直ぐに私を見て言う。
「お母さんにもお願いがあるんだけど、いいかな?」
「なぁに? 何でも言って」
「明日の結婚式が終わったらさ、一緒にママのお線香あげに行きたい」
「うん、私で良ければ行くよ」
「それともう1個」
少し悪戯めいた口調で続ける。
「私が結婚したら一緒にヴァージンロード歩いて!」
「ええぇっ、それはパパに怒られちゃうよ〜」
「い〜やっ! お母さんと歩く!」
優しい子だ、きっと気を使ってくれているのだろう。
そんな優しさに甘えてしまう。
私もこの優しい子を支えていきたいと願いを込めて。
「分かった。じゃあ、私がタキシードを着て一緒に歩いてあげる!」
「そうしよう」
得意気に笑う娘と星空を見上げる。
この子がいつまでも笑顔でいられますように。

『流れ星に願いを』

4/25/2024, 12:36:52 PM