ドルニエ

Open App

 それは二度と訪れない、ほんの一瞬のもの。
 同じところ、同じ角度、きわめて正確に模した光に照らされても、同じ光は放てない。
 砂漠の砂粒のように旅を続けるものじゃない。
 海の潮のようにも巡らない。
 路傍の石、何かの原石かもしれない、それでもわずかな価値も与えられない、ちょっときれいなただの石。
 その石ころ放ったわずかな輝き。出来損ないの物書きに訪れる、つまらない、すぐに忘れてしまう思いつきのようなささやかなきらめき。

 ぽつ、と雨粒が当たって、その石にぴしりとひずみが生まれた。
 そのひずみは小さな亀裂となって、
 もともと脆弱だった小さな石に、
 無数のひびが走って、
 捨て石は砂つぶとなった。

 だから、もうおしまい。

 そのきらめきはこの夜のこのとき、ここ、この世の果てから、
 永遠に失われましたとさ。

 そして。

 それはあなたの命と等価のものでした。

9/4/2023, 10:50:17 AM