霜月 朔(創作)

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ただひとりの君へ




私は…愚かだ。

悪意と憎悪に満ちた、
この世で生きるには、
私は、余りにも弱かった。

そんな私を、
穢れなき瞳をした彼は、
愛の名の元に、
救おうとしてくれた。

彼の手には、
冷たく光る刃が、
握られている。

あの銀色の輝きが、
私をこの苦悩から、
解放してくれるのだろう。

「私も共に逝きます。
これで、貴方は、
この世の苦悩から解放され、
…永遠に私だけのもの。」

そう告げる彼は、
哀しくも美しく、
微笑んでいた。

その微笑みを信じて、
私は彼に身を委ねる。
この世に残した、
ただひとりの君へ、
最期の言葉を残しながら。

………

―私が愛した
ただひとりの君へ。

どうか。
こんな惨めで愚かな、
私のことなど忘れて、
幸せに暮らして欲しい。

君がいつまでも、
幸福であるように。
遠い彼の世から、
ずっと祈っている。




1/19/2025, 6:00:59 PM