【My heart】
心ここに在らず、そんな言葉を知っているだろうか。時折、自分の体だけが世界に取り残される感覚に陥る。心がどんどん離れていって、僕は冷たい自我だけで世界に触れることになるのだ。
何も面白くない。何も集中できない。冷たさは体を犯していって、やがて棘に蝕まれた思考が体までを傷つけていく。それに涙を流せる心もないことが酷く苦しくて、暗い洞穴に差し込む僅かな光を求めるように、体から逸脱してしまった心を求めてもがくのだ。
心が体を返してと泣く。こういう時、僕という存在は体にあるのだろうか。心にあるのだろうか。ともかく、僕は心に体を返すべく、黒い世界を追い返そうと刃を手に取った。
意識を戻すのに最も効率的な方法であるのは、痛みだ。一本、また一本と、赤い筋が出来ていく度に、心が体に近付いてくる感覚を覚える。もやに包まれていた思考が澄み、僕のものではない思考が同じ極に面した磁石のように離れていく。
腕の一面が赤くなったあたりでようやく、僕は心を抱きしめた。痛みと、「もういいよ」の声に行動の異常性に気付かされて。
泣いている心を助けるためにした事なのに、心は幾重もの傷が増えている。
どうして。
泣かないで。
くるしいよ。
そうして僕も、涙を流す。近頃はやっと、あたたかくなってきたばかりだ。
3/27/2026, 4:18:14 PM