名勿し

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Nの横顔はいつになくやるせなさそうな表情をしていた。

「どうしたの?」

私が声をかけると、

「ん?」

ベランダからの夕焼けがNの色素の薄い瞳を貫いて輝いて
地毛の明るい茶髪の髪の毛が、ふんわりと揺れ、
同じシャンプーの匂いがする。そんな愛しい彼女の
髪を撫でてやるせない顔の理由を聞くと、

「夕焼けって、全部が終わっちゃう気がするでしょう?
 なんだか、寂しいなって。」

Nはたまに、急にセンチメンタルな気持ちになったと思えば
何ににも感傷的になって、全部を悲しいものにしてしまう。

私はそんなNが苦手だった。
Nの良いところは、私が見ていたいのは、
何事にも子供みたいに目を輝かせている姿だから。

「そう?私は好きだけど。」

だからあえて少し突き放す。
そうするとNは私の意図を勝手に解釈して
勝手に元気になる。でもこれでは解釈するに
情報が足りない。だからもう一言だけ。

「世界が今日で終わるわけでもあるまいし…」

そう言うと、Nは柔らかく微笑んで

「それもそうだね!」

と言う。その日の夜、Nは私の腕の中で呟いた。

「ねぇ……明日も一緒に居てくれる?」

またコイツは……。何をそんな当たり前の事を。
良い加減眠かったので、私はこう答えた。

「こんな良いベット買ったのに、
 居なくなるわけないじゃん……おやすみ」

そうとだけ言って私は目を閉じた。
何となくNはふふっと笑って
私が暑がりなのを先回りしてエアコンの温度を下げ、
私の胸に顔を埋めて寝た。

その寝顔を見て、私は安心して眠りについた。
そこにやるせないと思わせる表情は無かった。

8/24/2023, 11:51:36 AM