星乃 砂

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【風に身をまかせ】

 [失われた時間 続編]


「おい、勇者ってのはお前か?」
「はい?」

  ーー5日前に遡るーー

「よーいドン!」
青年たちは一斉に飛び出した。
くそ〜、やっぱりライラが先頭か。
今度こそ、絶対に負けない。
まずい、引き離されている。
スピードではライラにはかなわないか。
でも速い分コーナーでは大回りになる。
次のコーナーでインから抜いてやる。
「フーリン頑張ってー」
「ライラになんか負けるなよ」
みんなが応援してくれている、これで勝たなきゃ女じゃない。
「抜くのは今だ」
フーリンの奴こんなに速かったか?ヤバイ抜かれる。だが、最後の直線で抜き返してやる。
なぜだ、追い付けない、それどころか逆に離されていく。
その時、フーリンの体が輝きだした。
「何だ、あの光は?」
ライラや応援していた友達も、そして、その場に居たみんなが息を呑んでいる。
「ヤッター、初めてライラに勝ったぞ!」フーリンは大喜びで、友達の所へ向かった。
「どうしたの、みんな?そんな狐に摘まれたような顔して、ボクが勝ったからそんなにビックリしたの?」
「フーリン、今光ってなかったか?」
「エッ、何の事?」
「お前、体大丈夫か?」
「ヘッ、どうして?」
その時、後ろから声を掛けられた。「フーリン、長老がお呼びだ。来てくれ」
「エッ!」

「長老様、ボク何か悪いことしましたか?」
「フーリンよ、先程光輪(こうりん)した様じゃな。
「光輪て何ですか?」
「フーリンよ、よく聞くのじゃ、良いか」
「はい」
「遠い昔より、この地に伝え継がれた話しがある。」
『この世に災い降りかかる時、勇者現る。光輪すべき者勇者の元に集いこの災い討ち果たさん』
「フーリンよ、其方は選ばれし者じゃ、これより勇者の元へ赴き共に災いを討ち果たす使命を得た。今宵はゆっくり休み、来る日に備えよ」
「はい」とは言ったものの、何をどうすればいいのかサッパリわからない。考えててもしょうがないから寝よ。

 ーーそして運命の朝ーー
「これは、どうした事か、もう夜が明けていい時間なのに辺りはまだ真っ暗じゃないか」
里の人々が騒ぎはじめた。
「どうして、夜が明けないんだ」
「何か良くない事が起きたんじゃないのか」
「大変じゃ長老に相談しよう」
人々は長老の家に集まった。
「長老、これはどうした事でしょうか?」
「やはり、言い伝えは本当じゃったのか」長老は事の次第を皆に話した。
「フーリンを呼んで参れ」
慌ただしい中フーリンが呼ばれた。
「長老様、これはいったい?」
「既に災いは始まってしまったようじゃ、もはや一刻の猶予もない、すぐに勇者の元へ赴くのじゃ」
「でも、ボクに出来るんでしょうか?それに勇者がどこにいるか、わかりません」
「フーリンよ、其方は選ばれし者じゃ自信を持ちなさい。其方にこれを授けよう。これは“風の鈴”行くべき場所へ導いてくれる。さあ、行くが良い」
外に出ると皆が集まっていた。
「行くべき所を強く念じ、“風の鈴”を鳴らすのじゃ」
フーリンは言われた通りにした。すると、フッと、体が宙に浮いた
「そのまま、風に身をまかせて進が良い。さぁ行くのじゃ風の民の戦士よ」

「おい、勇者ってのはお前か?」

           つづく

5/15/2024, 10:49:17 AM