川柳えむ

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 昔々あるところに女の子とお母さんが二人で暮らしていました。
 女の子はいつも赤い頭巾を被っていたので、赤ずきんちゃんと呼ばれていました。
 ある日のことです。
「赤ずきんや。このパンとワインを、森の奥に住んでいるおばあちゃんに届けてちょうだい」
 お母さんにそう頼まれ、赤ずきんちゃんは一人で森の奥へと向かいました。
 おばあちゃんの家に向かって歩いていると、
「お嬢さん。どこへ行くの?」
 どこからか男の人が現れ、そう尋ねてきました。
「この森の奥へ。おばあちゃんにパンとワインを届けに行くの」
「そうかい。でも、この森は危ない。行くならこっちの道からの方がいいよ」
 そう男に案内され、赤ずきんちゃんは後をついていくことにしました。
 その道の途中に、素敵な花畑を見つけました。
 赤ずきんちゃんはその美しさに目的も忘れ、花を摘み始めました。
「もう暗くなってしまったよ。そろそろ行かない?」
 男にそう声をかけられ、赤ずきんちゃんは我に返りました。
 もう日は落ちていて、辺りはすっかり暗くなってしまっています。
「もう行かなきゃ!」
 赤ずきんちゃんは慌てて立ち上がりました。
「危ないから送るよ」
 男がそう言った時です。
 空に月が昇り、花畑を照らしました。
 すると、男はみるみるうちに姿を変え、オオカミになってしまいました。
「キャー!」
 赤ずきんちゃんが声を上げると、近くを巡回していた狩人が駆けつけ、オオカミを撃ち殺してくれました。
 こうして、赤ずきんちゃんは無事におばあちゃんの家へ辿り着くことができました。

 男はオオカミ男でした。
 半分オオカミで、半分人間でもある男は、森へと向かう女の子を見かけると、声をかけました。
「お嬢さん。どこへ行くの?」
「この森の奥へ。おばあちゃんにパンとワインを届けに行くの」
 男はこの先に危険なオオカミがいることを知っていたので、女の子に安全な道を教えてあげることにしました。
「そうかい。でも、この森は危ない。行くならこっちの道からの方がいいよ」
 その道の途中には花畑がありました。
 そして、女の子はその花畑に夢中になってしまいました。
「おばあちゃんのところに行かなくていいの?」
 暗くなり始めてもその場からなかなか動こうとしない女の子に、男は焦りました。なぜなら、男は夜になって月の光を浴びてしまうと、オオカミになってしまうのです。
「もう暗くなってしまったよ。そろそろ行かない?」
 男の言葉に、女の子はようやく立ち上がりました。
 辺りはすっかり暗くなってしまっています。
 男は早くこの場を立ち去りたかったのですが、女の子を放っておくわけにもいかず、
「危ないから送るよ」
 と女の子に手を差し伸べました。
 その次の瞬間、花畑に月の光が射し込みました。
 そして、男は光に照らされ、オオカミの姿になってしまいました。
「キャー!」
 女の子の悲鳴が上がりました。
 そして、そのすぐ後、銃声と同時に男の体に衝撃が走りました。
 男は半分人間なので、人間を食べたりしません。そして、半分オオカミなので、周囲のオオカミのことをよく知っていました。
 男は、オオカミの棲む危険な森で、女の子を助けたかっただけでした。
 月の光に照らされた夜の花畑は、それはそれは美しいものでした。その花畑でオオカミが一匹、眠るように死んでいました。


『月夜』

3/8/2024, 1:08:27 AM