名無夏

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君との日々が死んでから、十数年が経った。
ずっと連絡は来なく、今も行方不明のままひとりぼっちでいるのだろうか。そんなことを考えると苦しくなる。

僕は大学で出会った人と付き合い、同棲し、結婚した。僕は彼女のことを愛している。愛がなくては夜伽もしないし、触れたりなんかしない。だからちゃんと彼女を愛していると思う。
だけどやっぱり、"かつての君"が思い浮かぶのだ。
彼女の笑った顔、よく通る声、長く真っ直ぐな髪、甘い香り。全てが君に見えてしまって、苦しかった。
けれど先に裏切ったのは僕だ。裏切り者の僕なんかが"苦しい"なんて言うべきじゃないから、だから___

「パパー!」
「ん、どうした?」
「にひひっ、何でもなーい!」

君が歩めなかった生活を、僕は全力で営むことにする。
そう決めたけれど、心に穴が空いたみたいな、何ひとつ抜け落ちてしまったような感覚になる。

今日は晴天。君と、君を脅かす全ての者から逃げ出した日もこんな空だった。
そんな天気と相反するように、君がいなくなった日から僕の心の中は土砂降りのまんまなんだ。

3/24/2024, 2:04:09 PM