ずっといっしょだよって、約束をした。小学校に上がって初めてできた、大切なおともだち。きみと過ごした日々は今もキラキラと輝いている。中学校にあがっても、一番の親友だよ、だなんて、おとなたちが聞けば笑み崩れそうな、そんな約束。この子と過ごすこれからの日々はさぞ煌めいているだろう、とフワフワした気持ちでその日も過ごしていた。
「あのね、大切なお話しがあるの」
玄関を開けると、ママが高揚した頬で出迎えてくれる。
「パパが、昇進してね。本社移転になったんだって! 今よりももっと、もーっと、大きなお家に引っ越せることになったのよ。学校は変わっちゃうけど、今よりもいい生活ができるの! 今までたくさん我慢させてきたけれど、これからはかわいいお洋服も、美味しいごはんも、いっぱい用意できるからね……!」
声が、表情が、仕草が。全身で喜びを訴えるママに、わたしは一瞬、何も返すことができなかった。つまりそうになる声を無理矢理引き出して、勢いっぱい、今できる笑顔をつくった。
「……そっか……! パパ、すごいね! ……うれしいなぁ!」
そんなのいやだって。ここにいたいんだって。言えなかった。言えるわけ、なかった。ママはこんなにも幸せそうなのに。こんなにも喜んでいるのに。絶望している自分のほうがおかしいように思えてしまった。
あの子は、明日も明後日も、わたしといっしょなのだと信じ切っているだろう。わたしもそうだった。ついさっきまでは、そうだった筈なのに。
パパもママもあの子も、誰も悪くなんてない。幸運に喜び、これからの幸福を祈っているだけ。素直な喜びに同調できない心と、あの子を裏切る罪悪感に吐き気すら覚えながら、ただただわらって、喜ぶフリをしていた。
テーマ「やるせない気持ち」
8/24/2024, 1:47:39 PM