たとえばもしも、この白い腕が真っ白な翼であったのなら、大きく羽を広げるみたいに羽ばたいて、いつも見上げていた大空を思いっきり翔んでみたい。
そして世界の隅々まで、愛しい君を探しに行こう。
僕が忘れていた感情を、目を逸らしていた愛情を、君が再び教えてくれた。本当の僕を君だけが見つけてくれたんだ。
飛べない翼を持つ僕は、鳥籠に囲われ潰える命をただ待つだけの絡繰人形。精緻に造られた機械仕掛けの純白の翅を持つ、まがい物の小さな鳥。
けれど君は、そんな僕を綺麗だと言った。たった一度の刹那の偶然が、僕に永遠の夢を持たせてくれた。
そして僕は、僕を囚えたその鳥籠を飛び出して、小さな歩幅で窓へと突き進む。歯車の軋む腕を伸ばして翅を広げて。格子越しでもなく、窓越しでもなく、ただ一片の曇りもない大空へと羽ばたいていく。
冷たい風が髪を揺らして、期待と不安を募らせながら、君の指先だけをひたすら目指して。
もう一度、君の笑顔に会うために。
「綺麗な翅ね。太陽に透かしたら、きっともっときらきらするんでしょう。そんな鳥が空を飛んでいたら、私はきっとすぐにあなただとわかるわ」
世界の隅の一画で少女が空を仰ぎ見る。
その視線の先で光る小さな鳥を見つけた。
少女は両手を広げると、その手のひらに落ちていく小さな小鳥を捕まえた。
少女はふわりと微笑むと、力の潰えたその鳥に頬をよせ、優しく触れるキスをした。
「…がんばったね」
【飛べない翼】
11/11/2023, 12:24:25 PM