辰吉は老練な画家である。
鮮明で多彩な色の顔料達は目から、ざらざらとした紙質は滑る筆を伝って手に伝わってくる。どのように描こうか、どうすれば良い絵が描けるのかと考える時間は苦しみであれど、その裏には何時も楽しさが躍っている。
正しく、辰吉は絵そのもの全てに心を高鳴らせ、躍らせ、他では味わえないだろう快感を得ているのだ。
これはどんなに壮大な恋や愛にも変わらぬ、ただ一人自分だけで始っては己の命尽きると共に終わる内での活動である。
そんな辰吉は幼くしていつの間にやら絵の神様か悪魔かに心を奪われてしまったのかもしれないと考える。
然し今日までずっと高鳴るこの心臓をもってして、
「あぁ良かった。私の心臓は奪われてなどいない。」
と分かるのだ。
3/20/2026, 9:58:18 AM