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いつの間にか桜が咲くのが早くなった。春、というには少し肌寒い夜「おつかれさまです」時間を確認し、荷物とコートを掴んで足早にオフィスを出る『もしもし、ごめん今かいしゃで、た』ほとんど無意識にかけた電話、視線を上げると同じように携帯を耳に当てた彼がいた。唐沢は小さくこちらに手を挙げ、携帯を耳から離した、同時にぷつりと通話が切れる音がする「おつかれさん」「…びっくりしたぁ。わざわざ来てくれたの?」「ちょうど、この辺に用があってね」嘘か本当かわからないけれど素直に受け取り隣に並んで歩き出す。いつものタバコの匂いに混じって香るのはこの満開の桜の匂い、上を見上げれば月明かりに照らされた桜が咲き乱れている「桜、綺麗だね」「昼間とはまた違うな、ダイナミックだ」いつもと変わらない通勤路も、特別な場所のような気さえしてくる「すこし、遠回りしようか」そう言って彼が指差すのは桜並木の歩行者専用道路、いつの間にか繋がれた腕を引かれ遊歩道へ入る「う、わぁ」さつきとは比べ物にならない満開の桜、花びらがまるで絨毯のように敷き詰められ、ここだけ異世界のような空間に思わず声が漏れる「仕事忙しくって、春がきたことも忘れてたや」「俺は君がこんなに綺麗だってこと、思い出したよ」「えっ?な、なに」急に歯の浮くようなセリフをこぼす唐沢に体温が上がる「結婚、しようか。明日も明後日も一緒にいられるように」

春爛漫

4/10/2024, 10:02:34 PM