千明@低浮上

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もう数日もしないうちに9月だというのに、日中はまだかなり暑い。汗をポタポタと垂らしながらこれでもかと靴底をすり減らしているというのに一件の成果も得られない。
ラジオやテレビ、携帯電話。欲しい情報は簡単に手に入り、ペーパーレスを掲げるこの時代にもはや今更新聞を買う人なんて誰も居ないのではなかろうか。そう思わせるくらいに本当に今日は成果がない。それにこの暑さで心も折れそうだ。

結局今日は一軒も契約してくれる家は無かった。
足はまさに棒の様だ。やっとの思いで自宅マンションに帰り着くと我が部屋に灯りがついている。
あぁ、彼がきているらしい。
玄関を開けると奥から恋人が出てきた。私の顔を見て少し眉毛を下げると優しく抱きしめてくれる。そして手を引っ張ってお風呂場へ。湯船に溜まったお湯に私の好きな入浴剤を入れてくれた。彼が沸かしてくれたお風呂に入る。
リビングに入るとチョイチョイと手招きしている。
それに従ってソファーに座る彼の足の間に座るとブワッと熱風を当てられた。髪をすく彼の指が気持ちいい。手のひらからマイナスイオンでも出ているんだろうか。暫くして髪の毛が乾ききる頃には疲れた心も体もすっかり元通りになっていた。
結局、彼が与えてくれる私への思いやりや優しさ、愛情が疲れた体と心には一番の特効薬なんだと思う。
振り向いて彼に抱きつくと、ふっと笑った彼はいとも簡単に私を抱き上げて彼の膝の上に向かい合わせに跨らせた。そしてその大きい両手で私の額から後頭部へ髪の毛を撫で付ける様にして撫でてくれる。まるで子供にするみたいなやり方。
何も言わずに、ただただ私を甘やかす彼。

「君は私に甘いなぁ」
「彼女を甘やかすのは彼氏の特権でしょう」
「ああ、もう、ホント好き」

今日は本当に、ほとほと疲れ果てた。でも彼に充電100%にしてもらった私はきっと明日も頑張れる。





#言葉はいらない、ただ...

8/29/2022, 12:35:02 PM