『この道の先に』
ある日突然、小夜が交通事故で目を覚まさなくなった。
病院のベッドで目を瞑り、起きる気配が微塵もしない小夜を見下ろす。
小夜を轢いた犯人はその後死亡が確認されている。
小夜が目を覚ますには手術が必要らしい。だがその手術には莫大なお金がかかる。普通の人間《おれ》なら絶対に払えないくらいのお金が。
「小夜……」
まるで植物のように動かず、眠っている小夜へ声をかける。
その時、スマホが鳴った。通知だ。開いてみると組織からだった。
「……行ってくる」
踵を返し、扉の方へ歩き出す。返事は無い。あるのは悲しいほどの静寂と、呼吸音だけ。
さあ、任務を遂行しよう。どんなに偉いやつでも、聖人でも、俺はやり遂げる。あの時、小夜を轢いた犯人と偶然会った日から、俺はもう戻れない。
この後小夜の隣を歩けなくなったとしても、俺は止まらない。この道の先に、小夜の笑顔があるなら。
7/4/2024, 7:03:14 AM