幕 間 そして、少女はこの世を去った
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時計の針が、予定の時刻を差す。
すると、先程まで騒がしかった屋敷の外が、鳴りを潜めた。それは、ここにいる全員が『本物』と決別し、そして『虚構』を受け入れたということ。
『お願いします! どうか会わせてください!』
たった、一人を除いて。
手にしていた懐中時計の蓋を、殊更ゆっくり、時間をかけて閉める。
言葉になど、到底言い表せられない思いを、その中に閉じ込めるように。
『お願いします! 一目会えるだけで……声が聞けるだけでも構わないので!』
『……案内して差し上げなさい』
『……しかし、それは……』
『彼もまた、我々と同じく“現状”を受け入れるべきでしょうから』
『承知致しました』
ありがとうございますと、少年は額を地面に擦り付けるようにして感謝を述べた。
『……どうかお顔をお上げください。そのように感謝していただくようなことでは御座いません』
何故なら、嬉しそうに泣き笑う少年は、この後すぐ小さな墓石の前で、凄惨に泣き崩れることになるのだから。
見送った後、懐中時計を懐へと収めた。
……ちいさな少女の笑顔と共に。
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2/6/2024, 3:46:34 PM