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「ただいま、夏。」


山積みの参考書。

使い古されたノート。

そして、お母様が書いた「大学合格!」の張り紙。

自分を掘り起こしてみたら、行楽地に行った記憶がない。それどころか、友達と遊んだ記憶がない。

そんな煩悩の素振りを、見せた。

勉強してるときにもアザだらけ、絆創膏だらけの腕が視野に移る。

窓には暑苦しく遊ぶ子ども二人と穏やかそうな女の人がいた。

セミの騒音も、あの入道雲も

単なる造形物。



大学には受かった。

お母様は笑顔の一欠片も見せない。

首席で卒業した。

大学でよかったことなんてない。

アニメ?マンガ?

まるで刑務所から10年越しに外の世界に降ろされた囚人のようだった。

いつの間にか世界に疎開されていた。









刃物。









なぜか人がキッチンで寝転がっている。




しばらくして、正体が分かった。

気がついた頃には母はバタリと静かになった。

その日から母の声を聞かなくなった。

ミンミンセミが大きく鳴いている。

嘘みたいに煌めいた明清色の空間に
豪快に魅せる入道雲。

アツい。

この形容詞は暑いとも
「熱い」とも言えた。

いつもすっからかんのポストにチラシが挟んであった。
どうやら今週末、近くの遊園地でお祭りがあるらしい。


ああ。

夏が来た。

ようやく僕のところにも。

8/4/2025, 10:21:56 AM