【優越感、劣等感】
類い稀なる文才を持つが、締切を守らない作家と、
締切を必ず守る速筆だが、文章は人並みの作家。
はて、どちらが優秀か。
その議題に結論を出すべく、僕と藤守は賭けをした。
大学の文化祭。
僕と藤守はそれぞれのやり方で商売をしたのだ。
筆の速い僕は手作りの文集を売ることにした。自慢ではないが、知識も速度も僕にはある。
小説以外にも、今まで手がけた論文や研究議題など、多岐にわたる情報が満載に込めた本。レポートに喘ぐ学生が興味を示すと思ったのだ。
逆に。
藤守は文字を一文字を書かなかった。
彼は鬼才だが、締切を守れないことで有名だったからだ。だから、締切のないものを売る。
『お好きなテーマで小説を書きます。ただし、締め切りは無しで』
と。小説を書いてもらう権利を売った。
結果はどうだったか。
そんなもの。
藤守の勝利で圧倒的だった。
売店の教室に収まらないほどファンが並ぶ。
多くの人は女性で、藤守に恋物語や二次創作を頼んでは黄色い声をあげていた。
「いやぁ、俺の小説が好きだなんてありがとうね」
色男が笑うたびに、リクエスト権は売れていく。
五千字で一万円だぞ?
僕と目が合うと、藤守はニヤリと笑った。
ぼったくりの商売と人気に、僕は奥歯を噛み締める。落ち着かせようと握る自分の腕が痛い。
絶対的優位。彼の才能は本物だ。
悔しくてらたまらなかった。
けどそのあと、彼はさらに驚くべき行動をとった。
ーー文化祭の後、藤守は一筆たりとも小説を書く事はなかったのだ。
締切がなくて小説を書けなくなる小説家は、山の様にいると言う。
大学を卒業しても、彼は小説を書く事はなかった。
締切のないリクエストは死ぬまで有効らしい。
……あれだけの才能がありながら、なんで?
藤守は大学卒業後、姿をくらました。
彼の行方は誰も知らない。
そして、僕は今も細々と、小説を書き続けている。
7/13/2023, 9:43:45 PM