放たれた弾丸はあなたを刺して、その体はあっけなく崩れ落ちた。
傾いで、地面に手をつきもせず無抵抗に横たわる。
わたしは一瞬目の前が真っ白になって、震える脚をむりに動かしてあなたのもとへ駆け寄った。
膝に力が入らない。冷や汗が止まらない。どうすればあなたは助けられる。待ってくれ、死なないで、死んじゃだめだとそればかりが脳を支配する。
適切な処置の仕方は教わったはずなのに、いちばん大事な今、その記憶は霞んでしまっていた。
手が落ちつかない。止血さえうまくできやしない。
最悪なことに弾は貫通しなかった。胸の中に鉛が沈んでいる。背中側のどこにも傷はない。せめて貫いていたなら助かる確率もあがったかもしれないのに。
恐怖に息があがるわたしに、あなたは焦点のあわない瞳を向けた。その掌がゆっくりとわたしの頬を撫でた。
そこにいるんだね、と言うのに頷いて「いるよ」と返事する。
助からない。ふたりとも理解した。
やっと幸せになれると思ったのに。わたしとあなたで自由に生きて、好きなことをして、二人きりで、愛しあって、
ぼやけた瞳のあなたがつぶやいた名前は、わたしのものではなかった。
ずっと前に眠った人。あなたはもう一度名前を呼んだ。
迎えに来てくれたんだね、と笑ったその表情はわたしに向いていて、わたしに向いていなかった。
ああ。あなたは。あなたは、わたしよりも。
力を失った掌が滑り落ちる。しあわせそうな微笑みが血溜まりに沈む。
開いたままの瞳を見つめ、わたしは懐から取り出した拳銃を頭に突きつけた。
3/29/2023, 6:10:31 PM