とある幼子にはふたりきりの時にだけ話す存在が居た。きっと生まれてから傍についていた姉が亡くなったことが影響したのだろう。所謂イマジナリーフレンドというものだった。粗悪な家庭環境のなか、独りでも平然といられたのは空想の友人のお陰だったとも言える。
そんな中、更に幼子に不幸が襲いかかる。
小学校にあがる頃、まだ幼子は未熟だった。本来年相応に携わるはずだったコミュニケーション能力が欠如していたのだ。良く言えば大人しい、悪く言えば暗い子というのが他人から見た幼子の評価だろう。
幼子は早々に虐めの標的にされた。具体的に言うなれば虐めっ子と呼べる1人に目を付けられたのだ。小学生特有の幼稚な内容ではあったが、いつまでも続く虐めに幼子の心は蝕まれていった。
空想の友人は励まし続けたが、幼子は限界を迎えた。
学校からの帰り道、ふたりきりの会話が途切れた交差点で、幼子は消えた。決して神隠しではない。身体は青色の信号を眺め直立していた。幼子の精神だけが何処かへ消えたのである。
突然の事態に驚いた架空の友人は幼子を守ろうと咄嗟に交差点を渡り、帰宅した。
それから間もなくして虐めっ子が転校し、虐めから解放された友人は幼子のことを想い努力を続けた。他人からの評価が前述から面白い、明るい子と著しく変化する程だった。
10年以上の時が経つが、幼子は帰って来ていない。あの交差点を通る度、辺りを見渡そうが名前を呼ぼうが見つかることは遂になかった。
そして身体はもう、とっくに馴染んでしまった。
そうして形のないものだった友人は実在する本人と成ったのである。
9/24/2024, 7:05:16 PM