イブリ学校

Open App

 貧しい村の教会に彼は生まれた。彼の父親は隣国の戦争に駆り出されて死に、母親は彼を生んですぐに敵国の兵士になぶられ殺されてしまった。質素な暮らしに彼は辟易していたが、彼は優しい神父や自分とおなじ境遇の子供たちとの暖かくのどかな生活が好きだった。ただ、たまに血の匂いのする軍人や兵士が物資を目当てに訪れてきて、その度彼は人を殺す人間たちに吐き気がした。

 寝苦しい夜だった、眠れず目を瞑っているといきなり教会の扉が轟音とともに吹き飛んだ。破られた扉から銃を持った三人の敵国の軍人がおし入り動くものすべてに鉄の嵐を浴びせた。彼はベッドの下に隠れながらその様子を怯えて伺った。破裂音と光が発生する度に赤い何かが飛び散り、昨日までしゃべっていた友達が変形し、たおれていった。子供の阿鼻叫喚が響く中、軍人の「弱者救済」という叫びと笑い声が頭にこびりついた。すべてが終わり、彼は何も考えられず教会を出ると、外の壁に神父の死体がはりつけにされ脇に馬鹿にするようにスプレーで「弱者救済」と書かれていた。

 神なんてどこにもいないそんな事を考えながら当てもなく森の道を彷徨った。森はすぐに暗くなり、彼はお腹をすかせたまま倒れ、眠った。夢の中で教会でのみんなとの暮らしを思い出し彼は泣いた。その時、何かいい匂いがし彼があたりを見渡すと、明かりが少し離れた場所に見えた。近づくとそこには、あの地獄を作り出した三人の軍人のうち二人が、焚き火を囲むように眠っていた。すぐに彼は逃げようとしたが、火にかかっているシチューを見てしまった。彼の空腹はとっくに限界を迎えており、今食べなければ明日は動けない気がした。明日死ぬなら今死んでも同じか、彼はそう思った。彼は意を決して、静かに火に近づくと軍人たちの顔が照らされた。瞬間、彼はあの地獄で笑っていた顔を思い出し恐怖するとともに怒りが湧いた。みると、寝ているすぐ脇に気持ちの悪い光を放つナイフがおいてあった。彼は自分の感情を抑えられなくなり、そっとそのナイフを持ち上げると軍人の汚い首の上で構え、渾身の力と勢いで刺した。刺した瞬間、軍人の体はしめられる動物のようにびくっとしたあとに血の咳を吐いた。彼は首を思いっきり刺し押さえつけたが、咳の音でもう一人は起きてしまった。彼が血の付いたナイフを首から引き抜くと、軍人は何が起きたのか気づいたらしく悲鳴を上げ腰を抜かしながら、自分の装備の方へ這った。しかし彼に一瞬で押さえつけられできるだけ死なないように何箇所も刺され軍人は死んだ。彼は「弱者蹂躙」そう叫びながら笑った。

 彼は二人が完全に死んでいることを確認した後、一心不乱に火にかかった暖かいシチューを食べた。きれいな白いシチューは輝きを放ち、色とりどりの野菜の旨味が心地よく口に広がった。特に歯応えのある肉は噛めば噛むほど肉汁がドロドロと溢れてたまらなかった。軍人の血が手にベッタリとついていたが美味しすぎて止められなかった。食べ終わった瞬間、いきなり彼は地面に押さえつけられ首にナイフを当てられた。それはもう一人の軍人だった。軍人が二人しかいなかった時点で彼にはこうなることが予想できたが、もうどうでも良かった。殺されるのを待っていると、軍人は彼に二人の軍人を殺したのはお前かと聞いてきた。そうだと彼が答えると軍人は笑い、彼を軍の訓練生にした。彼は訓練中あらゆる科目で史上最高の成績をおさめ、一流の軍人となった。それからの彼はあらゆる戦場で活躍をし、その度に莫大な報奨を授かった。彼の暮らしは誰もが羨むような裕福なものになった。

ある戦場に行く途中、物資を補給するため教会によると。多くの子どもたちが楽しそうに広場で遊んでいた。懐かしむように子どもたちを見ていると、一人の子供がやってきて言った。
「おじさん軍人?」

10/10/2023, 4:32:39 PM