髪弄り

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※とても長くなってしまいました。申し訳ない…。

「ぴよぴよ…」
朝、小鳥の囀り響く平和な日常
「おはよぉう…」
あくび混じりに言葉を紡げば、
安らぐいつもの声がする。
「あら、おはようあなた、今日はずいぶんと早いのね」
一人息子もこう早いと挨拶もできない。
だが、妻は違う。
素敵な笑顔で言葉を返してくれる。
艶のある肌、煌めく髪、出会ったのが十五年も前だとは思えないほど、彼女は若く美しい。
「企画が大詰めでね、後もう少しで上手くいきそうなんだよ」
相槌を返す彼女、結婚して支えると誓った十年間、今日もこの笑顔のため頑張れる。
「へぇー、そうなのねぇ」
「ご飯美味しかった、いつもありがとう」
スーツを引き締め、鞄を持つ。
「じゃあ、いってきます!」

ばたん!

「………はぁ…」
思わず溜息が出る。結婚してから十年間、
一種の儀礼と化した送り迎えに、私はもううんざりだった。
出会って一五年、夫のことは好きだった。
私の母は異常な教育ママで、私に常に完璧にいるように求めた、だから、誰からも心を開けず、常に美しく完璧にいるように努めた。
誰にも言えないその秘密を夫は見つけ、助け出してくれた。努力家で真っ直ぐ、そんな彼は私にとってヒーローだった。

今はもう見る影もない、仕事第一で家事はしてくれず、帰りは遅い。接待の為に休日は潰れ、家族サービスの一つもしてくれない。
“そして何よりハゲている”

正確には薄毛だが、見る人見れば、そろそろかつらが必要だと予想できるだろう。
いや、夫のことはどうでもいい。
「おはようー、早く起きないと遅刻するよ」
「…おはよう」
とても可愛い私の娘、この子はいつも寝坊すけさん、起きるのがいつも遅いのだ。
目を擦る動作に、長い髪にくっついた寝癖が何と愛おしいことか。夫が変わってしまっても、私はこの子のため、家庭を支えるのだ。
「こらこら、寝癖なんかつけちゃって」

「ほら、髪留め…。うん、よく似合ってるわね、ほんと可愛いわ」

「ありがとう、お母さん、でも私すぐに出なきゃだから、朝ごはん代わりに食パン貰ってくね」

「あらそう、最近の小学生は大変ね。
じゃあ、気をつけていってらっしゃい」
行ってきますと同時に見せる。切なげで愛らしい笑顔は、天使の如く。いや、天使だ。
今日も、あの子のために頑張ろう。

バタン…

ランドセルを持ち、閑散とした道を進む
家にあんまりいたくない、ママのせいだ。

ママの愛は、なんだか変なのだ。ママは僕に女の子が着るような服を着せ、髪を伸ばすように言う、口調もママの前ではそうじゃないといけない。
僕は男なのに、同級生にもオカマとかきもいとか、嫌な事ばっか言われる。
小2までは何もなかったのに急にそうなった。
だから、僕は同級生がまだいないこの時間に出かけるのだ。
それに、ひとつ楽しみもある。
公園の林の中、にゃーにゃー、鳴く声がする。
「今日もいるな」
僕はそこにちぎった食パンを置く、
林から小さな黒猫が出てくると、それをパクリと頬張った。
「よしよし、よく噛んで食べるんだぞ」
パンを食べ終えると、僕の膝に頭を押し付ける。これは甘えている証拠だ。いつものように喉を撫でると、心地よさげにゴロゴロとなく。

「なぁ、クロ、今日もこんなのつけられたんだ」
髪留めを外し、そっと置く。クロは興味深そうにそれを見ている
「僕は男なのに、やっぱり母さんは変だよな」
クロはそれでしばらく遊んだ後、飽きたのかその辺にほっぽり出した。
「ははは、やっぱそう思うよなぁ…」
クロは僕の友人、唯一の相談相手、と言ってもクロは僕の言葉を理解してるわけじゃないだろうし、クロの言葉はわからない。
でもお母さんやお父さんに相談するよりはよっぽどマシだと思う。
それにこうした反応を見ていると、なんだか心が落ち着くのだ。
「クロ、また来るね」
しばらく猫じゃらしで遊んだ後、僕は林からそっと出た。クロと会うために、今日も頑張ろう。

「あれ、あの猫ちょーかわいくない!?」
「え、猫!?ま、どこどこ。本当だ、小さい黒猫だね」
「わ、むっちゃ声出して甘えてくる、かわよ」「みーちゃんなんか持ってない!?猫食べそうなの!」

ゴロゴロと猫は鳴いた。

『特別な存在』

3/24/2023, 11:34:35 AM