300字小説
約束
……思い出すわ。貴方を拾ったときのこと。『人喰い魔女』なんて呼ばれている女のところにきて、安心と不安がないまぜになった顔。でも、少し一緒に暮らしたら懐いてくれて嬉しかったわ。
……貴方との日々は私の宝物。だから約束して。決して復讐なんてしないって。貴方は幸せに生きてちょうだいね……。
「もうすぐ討伐隊がきます」
使い魔が俺に告げる。
「『人喰い魔女』を倒した英雄王を殺した大罪人だからな」
魔法陣を描き終える。
「本当に禁呪を使うのですか?」
「ああ」
陣の上に手を翳す。
「約束の一つを破っちまったんだ。残りの一つ『幸せに生きる』は必ず叶えないと」
この世界では無理なら、別の世界で。俺は異世界転生の呪文を唱えた。
お題「安心と不安」
1/25/2024, 12:14:10 PM