絨毯の上に伏してバラ撒かれていたカードを、彼はいともたやすくペアにして傍らに捨てていく。
「これとこれ。で……、これはこっちだっただろ」
彼と向き合う、彼より十歳は年下とおぼしき妹たる少女は、ぷぅと頬を膨らましてどんどん少なくなるカードを睨んでいる。
「あー、これはどうだったかな。これか? うわ、マジかよ外した!」
兄は額を押さえて妹を見る。
「残り4枚か〜、もう全部当てられちゃいそうだな」
最後に花を持たせよう——という意図でもあるまいが。
しかし残り枚数を得たところで、兄と妹の当てた枚数の差は歴然で、妹に勝ち目はない。
見るからに悔しげな風情の妹の腹の虫がおさまるはずもなかった。
「お兄ちゃん、ズルい!」
「えぇ……? ズルなんか、してないぞ」
眉を八の字に下げて、弱々しく兄は言う。
友達の家で覚えてきたらしい、トランプゲームの神経衰弱。
同年代数名でやったゲームを妹はとても気に入ったらしく、家でもこうして兄相手に勝負を挑んでくる。
……多少、気を使ってプレイすればそこは鋭く見抜いて『真剣にやって!』と怒るくせに。
真面目にプレイして連勝を重ねてしまえば、これだ。
どうしたものか、と兄は項垂れる。
——しかし。
「もう、お兄ちゃんは最初に2回間違えてからじゃなきゃ、正解をひいちゃダメ!」
全てのカードを伏せて、絨毯の上で洗濯機よろしくグルグルとかき回しながら、妹が宣言した。
「えっ、何だよそのルール」
圧倒的に兄ちゃんが不利じゃん。
そんなのゲームじゃないだろーと抗議すると。
「ここでは私がルールなの!」
妹はぐいと偉そうに顎を引き上げ、胸まで張った。
「……どこでそんなセリフ覚えて来た——兄ちゃんだから許すけど、外で言うなよ絶対」
「お兄ちゃんだから?」
「そう。兄ちゃんだから、お前の我儘発言もできる限りは聞いてやるよ。
それが、兄ちゃんのルールだからな」
でも外では、絶対そういうことを言ってはダメだと念押しする兄の言葉を聞いているのかいないのか。
妹は嬉しそうに、
「そっかー、お兄ちゃんだからいいのかぁ」
……と。
ニコニコ笑って、伏したカードが重ならないよう広げるのだった。
4/25/2024, 6:01:18 AM