谷間のクマ

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《明日に向かって歩く、でも》

拝啓 齋藤雪音様

 姉さん久しぶり。俺、春輝。姉さんの命日に手紙を書くのはやめちゃったけど、今年は節目の年だもんな。久々に筆を執ってみた。つーわけで蒼戒から報告あったと思うけど、俺たち高校生になったぜ。姉さんが死んでから、もう10年も経つ。早いよなあ。
 高校生になっても俺は変わらず野球ばっかやってるし、蒼戒は剣道ばっかやってる。この辺はあんま変わんねーな。あと俺の弟バカには磨きがかかりました(笑)。
 変わったことと言えば、蒼戒がちょっとづつ前を向き始めたこと。俺を信じるって、言ってくれたこと。だから俺、蒼戒のためにもぜってー死ねない。つーか俺が死んだら蒼戒はすぐ後を追ってきそうだからな。ちなみに俺も蒼戒が死んだらそうする。
 つーわけで、かなりわかりにくい話になっちまったけども、結論。俺たちは元気です。たまにやべーこともあるけれど、明日に向かって、なんとか歩いてます。
 それでも、たまに立ち止まって涙を流す日があってもいいよな? 昔を思い出して、過去にケリをつけることも大切だよな? そうして、俺たちきっと幸せになるから姉さんは天国から見守っててくれ。
 そんじゃ、次に手紙を書くのは大学生になった時かな? その頃には幸せになれましたって、書けたらいいな。
敬具
十二月某日 齋藤春輝

★★★★★

 過去へ届く手紙。そんなものがあったら何を書くだろう。
 感謝の気持ち? 死の回避の仕方? 馬鹿馬鹿しい。んなもん存在しねーんだから考えたって仕方ねーだろ。
 そんなことを考えながら、俺、齋藤春輝は天国の姉さんに向けた手紙をどんど焼きの炎の中に放り込む。蒼戒のように命日に燃やすことも考えたけど、蒼戒の手前なんとなくそれはしたくなくて、どんど焼きで燃やすことにした。
 手紙はたちまち火がついて、あっという間に灰になる。
「……サイトウ、あんた、何投げ込んだの?」
 同級生で、同じ地区に住んでいる明里が呟く。ちなみに明里はなぜか俺を「サイトウ」と上の名前で呼ぶ。
「ん、手紙。出す気もねーけどゴミに出すのもどうかなって思ってさ」
「ふーん」
 明里はすぐに興味を失ったように答える。
「……姉さん宛て、か?」
 すぐ近くで俺たちの会話を聞いていた蒼戒が明里に聞こえないよう小声で尋ねる。
「……バレてた?」
「……いや、なんとなく」
「今年は節目の年だから書いとこうと思って」
「お前も命日に燃やせばよかったのに」
「まあなー。さ、餅焼く用の竹切り出すか!」
「あー、その前にサイトウ、これ中央の飾り崩れるわよ? さっさと支えの紐切っちゃったら?」
「だなー」
 というわけで俺は感情に浸るまもなくどんど焼きらしいことに意識を向ける。
 どんど焼きの醍醐味は餅を焼いて食べることだからなー。

 明日に向かって歩く。でも、たまには立ち止まる日があってもいいよな?
(終わり)

※今日のストーリーは昨日の《ただひとりの君へ》の別視点(?)となっています。

2025.1.20.《明日に向かって歩く、でも》

1/20/2025, 2:20:09 PM