アカサキオキ

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 彼は不思議な体験をしたらしい。しかし、もうほとんど覚えていないと言っていた。翌日からすぐに落ちていくようだった、とも。

 夕方、家の近くの道を歩いていた。彼は帰宅しようとしていたらしい。ある辻で言葉を拾ったという。
「みーつけた」

 気が付くと見知った道ではなかった。橙に染まる空、そして見知らぬ町。人影はなかった。知らぬ商店、知らぬ家。十代も半ばというのに迷子、しかも家の近くでなど笑えないと思ったという。
 ふと何者かとすれ違う。どこから現れたか知れず、すれ違うときにそれに気付いたという。それまでその存在には気付かず、視界に入っていたのかもわからなかった。彼とすれ違ったものは、人ではなかったらしい。具体的にどの部分を見たのか定かでないが、どうにも瞬時に人ではないと判断したとのことだ。
 そして果たして家に帰ることができるか不安になった。しかし声は上げず拳を握りしめる。周囲をそっと見回す。どう見ても知らない場所だった。動くか止まるか。その場でぐるぐる歩くことにしたらしい。
 そうしているうちに元の辻の近くに出た。
 何者かとすれ違った以外は何にも遭遇していないらしい。

 逢魔が時の神隠し。
 彼は、自身の記憶すら疑わしいという。そんなおぼろげな記憶の話だった。



9/23/2025, 9:19:48 AM