マル

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 盆暮れの時期。可愛がってくれていた叔父がなくなった。
 じわじわと蝉のなく休日。クーラーの効いた部屋でダラダラと過ごしていた時、親から急な連絡があり訃報を知らされた。
 ただ、どうしても実感は湧かなかった。
 悲しくて否定したいとか、そういうわけじゃない。 
 ただ、まだ60の半ばであり、半年前の正月の日に出会ったときはそんな素振りもないものだから、まさかそんなわけ、と思った。
 祖父や祖母の時は86に95と、齢を重ねていたから、悲しくともどこか「あぁとうとうか」という実感があったが。 

 正月ぶりの実家。両親に出迎えられ中に入った。
 食卓を囲った大広間。そこには叔父が眠っていた。
 にっかりと笑った遺影は、見覚えがある。叔父が旅行にいったときに見せてもらった写真だと、何故かすぐにわかった。
 父が固く拳を握りながら「あのバカ弟…」と小さく呟いたのを聞いたとき、あぁ本当に叔父は死んでしまったのだと理解した。

 葬儀もあらかた終わり、少し自由になった俺は両親に勧められ、少し町を歩いてみることにした。
 行く宛もないただの散歩道。ただ少し違うのは叔父を思い返していること。
 そうしてみると、何も変わっていないと思っていた町が大きく変化していることに気付いた。
 幼い頃、叔父に手を引かれ行った駄菓子屋は、もうなかった。
 何気なく歩いた畦道は、田んぼごとなくなって、真新しい綺麗な家が立ち並んでいた。
 通っていた学校は、建て替えられたか塗り替えられたか、黄ばんだ壁は真新しい白色に変えられていた。
 叔父と過ごした町は、明らかに変わっていた。

 …どうしてもっと、話さなかったのだろうか。
 そんな風な感情が突然ドッと湧いてきた。葬儀ときには流れなかった涙が、吹き出してきた。
 でももう、どれだけ後悔しても遅いのだ。叔父はいない。思い返せる場所も、もうない。

 もう大人だというのに。俺は駄菓子屋のあった綺麗な交差点でボタボタと泣いていた。

きょうのおだい『やるせない気持ち』

8/25/2023, 9:54:35 AM