氷室凛

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 やっぱり綺麗だよな、と思う。
 腹立たしいけれど、あの真っ青な目を三日月型に細めて「見惚れちゃったかい?」なンて聞かれたら、うっかり素直に首を縦に振っちまいそうだ。

 踊ってるみてェだ。貴族の開く舞踏会っつーのに行けば、彼のように踊る人々を見れるンだろうか。いや──どんなにか大きい舞踏会に行ったって、アイツより綺麗に踊る人間なンていないだろう。ンなものには縁のねェ人生だから、きっと確かめることは一生できねェが。

 真っ直ぐ伸びた背筋。
 どんなに動いてもブレない頭と腰。
 避けるときは絶対に四肢のどれかは地面についていて、次の動きに備えている。
 武器を振り回す手は指先まで力が入っていて、それでいて滑らかでしなやかだ。


 ああ、本当に綺麗だ。いつまでも眺めていたい。

 ………………やってることが殺しでさえなければ。


 どしゅ。また鈍い音がして、彼の持ってる武器が相手の頭を叩き潰す。
 両手で振り回す長い棒と鉄球のついた鎖がくっついたようなアイツの特徴的な武器は、モーニングスターとか言うらしい。勢いのついた鉄球は簡単に相手の身体を破壊し、血しぶきを派手に吹き上げていた。

「……やりすぎじゃねェか」
「やりすぎぃ? あっはははは! それは金を払わなかったこいつらに言ってくれよぉ。おれだってほんとはこんなことしたくないんだよ? でもウチはタダ働きは絶対にしない。きみの給料だって依頼者の支払いで成り立ってる。だから支払いの滞ったお客様をひん剥くのは、取立て屋のおれの大事な仕事だよ」

 そう言って自分で作った真っ赤な霧の中で、真っ青な瞳を柔らかく細めながら笑う。それはもう、いつものような──「やあ、今日はいい天気だね。このところ雨ばっかりだから嬉しいよ」と言ってたときと同じような、柔らかい笑みだった。

 そンな頭のネジが1本外れたコイツ──アルコルと出会って数日、わかったことがある。

 コイツは女と殺しが好きなどうしようもねェクズだ。

 で、そンなことを言えば「でも酒とタバコはやらないよ。あ、クスリもね〜」と悪びれる風もなく堂々と抜かしやがる。最悪だ。
 その上いつもヘラヘラした笑みを顔に貼っつけて、そのクセ腹の底は読めないときてる。普通ならまず関わりたくねェタイプだ。

 だってのに──俺はコイツとペアの仕事に志願しちまった。
 最悪だって思ってるのに、関わらない方がいいってわかってるのに──見たいと思っちまった。

 コイツが間近で、実際に戦ってる姿を。

「ところで、新人。戦闘はおれに任せてきみは高みの見物かい? それともビビっちゃったかな?」
「……チッ、まさか。悪名高き取立て屋ってのの仕事ぶりを見たかっただけだ」
「あっはっははは! なるほどなるほど、それで俺の仕事についてきたってわけだ。いやぁ勉強熱心な若者が入ってお兄さんは嬉しいなぁ」

 血の臭いが充満した部屋の中、アルコルはいつもと変わらない笑顔で馴れ馴れしく肩を組んでくる。



 その時から、今の今にいたるまで。
 頭のネジが外れてて、クズで、どォしようもなくて、ひたすらに強く、戦う姿の美しいコイツのことを──俺は嫌いになりきれないでいる。





出演:「ライラプス王国記」より イル、アルコル
20240907.NO.46「踊るように」

9/8/2024, 6:04:00 AM