わをん

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『冬は一緒に』

雪しかない山のふもとっぱらに一人立ってスコップをざんと突き刺す。
「今年も来ました」
山のてっぺんに向かってお辞儀をし、雪中キャンプの設営を始める。地ならしをし、ペグを埋めてポールを立ててとひとり忙しく動いていると、視界にひとつふたつ鹿の姿が映る。鹿からの視線に若干の監視のような雰囲気を感じながらも作業はしばらく続き、今夜の寝床が完成する頃には鹿の数は両手では足りないほど集まっていた。コーヒーでも入れて一息つこうと思っていたがそれどころではなさそうだ。荷物の中から日本酒の入った一升瓶を取り出すと同時に、鹿の群れが割れてひときわ大きくて白い鹿が現れた。
「どうぞ、お納めください」
のしのしと近づく白鹿は雪の上に置いた紐を結わえた一升瓶をあらためるとふんと鼻息一つを鳴らして口に咥える。そして踵を返すと鹿たちを引き連れて山の奥へと消えていった。今年も満足していただけたようだとほっと胸を撫で下ろし、荷物の中から同じ酒が入った半升瓶を取り出してぐい呑みにとくとくと注ぐ。
「ご相伴させていただきます」
山のてっぺんか、それとも森の奥深くかで開かれているかもしれない酒盛りをほんのりと想像して、一息にぐいと飲み干した。

12/19/2023, 3:56:46 AM