藍星

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ねえねえ、知ってる?
夜景の中に星型を見つけられたら、流れ星を見つけたのと同じで、願いが叶うんだって。

私は、ハート型を見つけられたら好きな相手と両想いになれるって聞いたよ。

本当!?じゃあハート型を探そうっと!

でもそのハート型を見つけた後、展望台にある高い鐘楼まで登って鳴らして、好きな相手の名前と想いを叫ばないといけないんだって。

ええ〜〜っ!!なにそれ〜?ウソでしょ?
それはイヤだなぁ・・。

でも本当にしたら、両想いになれるかもよ?
実際、想いが通じたって話があるらしいし。

それって、ただ公開告白して成功したって話なんじゃないの?その鐘楼で叫んだ愛が、その相手にたまたま聞き入れられただけなんじゃないの?

フフッ、かもね。こんなきれいな夜景の中で、かつ大勢の人の前で叫ばれた愛なら、素敵に聞こえたのかもね。


––––なるほど、そんな話があるんだ・・
  それで、この人だかり・・––––
吐き出した息が白くなり、地面に氷がはるような寒さだというのに、夜景が見える展望台は人でごった返していた。

夜景が綺麗に見られるとは聞いていた場所だった。しかし、ここまでの人の多さは予想外で、私は夜景の美しさを楽しむどころではなかった。何せ、ここに私を連れてきた友人とはぐれてしまい、かつ人ごみの中で足を踏まれて挫いてしまったのだから。
私は自販機横のベンチに座り、購入したあたたかいココアを飲んでいた。

しばらく座っていると、何度か鐘の音が聞こえた。そして、一人が何かを叫んだ声がした。内容は聞き取れなかった。しかし、その後に喝采のような大勢の人の声が聞こえたことから考えるに、あの噂で聞いたハート型を見つけた後の"愛を叫ぶ儀式"を実行した人がいたのだろう。

その"愛を叫ぶ儀式"の噂は有名なのか、叫びが聞こえてくる回数はなかなか多い。足が痛くて動けない私は、その叫びを何気なく聞いていた。

––––これからも
   夫と一緒にいられますように!–––
–––ずっと、かなちゃんと親友で
   いられますように!–––
––––絶対に、彼女と幸せなるぜ!–––
––––おじいちゃんとおばあちゃんが
  元気でお小遣いくれますように!–––
––––モテたい!!–––
–––お母さん!お父さん! 
  いつもありがとう!大好き!–––
–––お兄さん!怖いけど本当は尊敬してる!––
–––小遣いを増やしてくれる優しい
  家内よ。いつもありがとう!–––
–––大切な家族が、健康でいますように!––

夜景の美しさのためか、はたまた儀式の信ぴょう性が高いのか、叫びたくなる愛はそれなりにあるようだ。
たまに思わず笑ってしまったり、下心が溢れている愛もあるが、聞いている気分はさほど悪くはなかった。


あっ、大丈夫?夜景見てるのかと思って探してたんだけど・・

友人が見つけてくれたが、私の足を見て気の毒そうな表情を浮かべた。
私はこの足で、この人だかりの中を進んで夜景を見に行く気力は失せてしまっていた。

その心情を話すと、友人は売店に行きしばらくして戻ってきた。友人は、私にここの夜景のポストカードをプレゼントしてくれた。
せめてもの記念に、とのこと。

私達は帰路につくことにした。
私は肩を貸してくれた友人に、"愛を叫ぶ儀式"の噂を話した。すると––

叫んでおかなくていいの?あなたにだってそういう人の一人や二人いるんじゃないの?

じゃあ、遠慮なく。と、
私は友人に向かって、ポストカードを示し––
ポストカードで夜景をくれたあなたと、これからも友達でいられますように。

友人は照れ隠しをしながらも、喜んでくれたみたいだった。
そして、お返しにと、友人は言った。

いつか、あなたが素敵な恋をして幸せになれる相手と出会えますように。


私には、そんな人いないよ。きっと。と苦笑していった。しかし友人は、

そう言うあなただからこそだよ。
私が願っておくの。


       ––––––––––––––

あの時プレゼントされたポストカードの夜景は、今でも美しいままに手元にある。
でも、やはり直接見る景色は美しかったのだろうなぁと、少し惜しい気持ちに浸っていた。

ポストカードの写真には、夜景を背景に逆光になった鐘楼のシルエットがある。その写真の下には、詩のような文があった。
『夜の灯りは愛しいあなたへの道導。
導かれた想いを祝福する鐘楼の音が響く』


その写真はなんだ?きれいな夜景だな。

後ろから彼がポストカードを覗き込んでいた。私は彼の前に写真を差し出す。

以前に友人と見に行ったこと。人でごった返していて足を痛めてしまい、結果見られなかったこと。その私を気づかって、プレゼントしてくれたポストカードだということを話した。

この下にある詩のような文は?

あぁ、それはね。その場所ですると想いが通じたり、願いが叶うって言われている儀式みたいなものがあるらしいの。
と、あの"愛を叫ぶ儀式"のことを話すと、彼の表情が少し真剣さを帯びた。

君は、その儀式ってのをやったのか?

えっ?あ・・一応、やったよ。
効果は、まぁあったと思う。今でもその友達は友達でいてくれてるから。
と、答えると彼は、そっか、と呟いた。

しばらくポストカードを眺めている彼の顔を見て、私はふとあの時の友人の"愛を叫ぶ儀式"の言葉を思い出した。そして、その儀式の効果があったことも・・。

勝手に顔が熱くなってしまい、私は彼にポストカードを返してと言った。
しかし彼は、私の掴もうとする手をかわして少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。

君はその時、この夜景をじかに見られなかったんだろ?オレもこの夜景は見たことがない。なら、今度一緒に見に行かないか?
その儀式ってのを、今度はオレのためにやってほしいな。

私はさらに顔が熱くなるのを感じた。
あんな高い展望台に登るのは、今は難しいし具合が悪くなるかも。
と、諦めてもらおうとした。しかし、彼の表情は変わらなかった。

その儀式は効果はあるんだろ?君の実証済みなら、オレは君をおぶってでも行きたいな。
あ、君が自分だけじゃ割に合わないって言うなら、オレもその儀式をやることにしよう。もちろん君のためにな。

私は人でごった返しているあの展望台に、彼の声で私への想いが響くのを想像したら、顔から火が出そうになった。

きっと、あの時あの場で愛を叫ばれた人達も、さぞ恥ずかしかったことだろう。
叫ぶ方も結構な勇気や覚悟が必要なのは想像できた。あの時私は、笑いながら聞いていたけど、今なら叫ばれる側の気持ちもよくわかる。

絶対やめて!恥ずかしすぎるよ!
と、抗議するも彼の意志はなかなか揺るがなかった。私の慌てる様子を楽しんでいそうなところもあったが、本当に儀式をやりたいような気持ちがあるようだった。

私は、ふと彼に展望台での儀式を諦めてもらう方法を思いついた。
彼の手からポストカードを取り返し、宛名などを書く方に、文を書いた。
そして、そのカードの文面の方を彼の目の前に突き出した。

はい!これでいいでしょ!?
本物の夜景が見られなかった私は、あの時このポストカードの夜景に対して儀式をしたの。だから、あの時と同じ儀式を、これでしたことになるよ。
これ・・あなたにあげるから。だから、あなたへの儀式はちゃんとしたよ。
一気に言い終わり、真っ赤になっているであろう顔を彼に向けると、彼も少しばかり赤くなっていた。

ポストカードを受け取り、彼はありがとうと、呟いた。

ど、どういたしまして。
これで話は終わったかと思いきや、彼は私の手をつかんで引き寄せた。

なぁ、儀式ってのは叫ばないといけないんじゃなかったのか?
想いを書いてもらえたのは嬉しいけど、せめて声に出してくれないと効果のある儀式にならないんじゃないか?

彼の瞳には、真剣さといたずら心がどっちも宿っているように見えた。いや、いたずら心の方が少し勝っていた気がした。

顔が赤くなるだけじゃなく、心臓までもが激しく早鐘をうつ。こうなった彼はもうおさまりがつかない。満足するまで手を離してはくれないのはよく知ってる。
私は意を決した。

叫ぶということは、
想いを強く届けるということ。
なら、一番近くから私の想いを届けよう。

彼の耳元に顔を近づけて、ポストカードに書いた文面を読み上げた。

あなたがいつもそばにいてくれて、
    とても幸せだよ。
        あなたが大好き。
 あなたを心から愛してます。 
私もこれからもずっと、一緒にいるからね。


恥ずかしいけど、
たまにはこうして愛を叫ぶのも、いいかも。

5/11/2024, 2:46:25 PM