田中ボルケーノ

Open App

大事にしたい

千載一遇のチャンスが巡ってきた


長らく真面目にやってきた
社歴が長くなるといよいよ社内の様子まで見えてくる

入社以来、切磋琢磨してきた仲間達もいつの間にか選別され、限られた次の椅子を狙うライバルになっていく

最初は不器用で形が整わない赤い炎も
集中して酸素が送られると青く燃え
熱量は増しても外からは見えにくくなる

僕には見えていた
この炎の中に僕はいない、完全にコンロの外、脱落者であった


居残りの残業をしていたある日
見てはいけないものを見てしまう

喉が渇いて
お水を飲みたくて空になったマグカップを持って給湯室へ向かう

社内はとっくに帰って誰もいないはずだった

ところが足が止まる
異様な雰囲気
艶めかしい甘美な音が漏れ聞こえる、

心臓が高鳴る
足を忍ばせ、音が聞こえる給湯室を遠目から覗くと

同期で次期課長の呼び声が高い三平と
同じく同期で次点の課長候補の玲奈ちゃんが

あろうことか給湯室のコンロの上で燃え上がっていた

コンロの上で激しく燃え上がる様はまるで本格中華のチャーハンだ

鍋底とコンロが激しくぶつかり合う音、パラパラのお米が鍋の上で踊っている

僕は思わず写メを撮った


そっと気づかれないように退社し、家に帰ってから冷静に考えてみた

混乱する頭を整える
あの二人、確か

三平は奥さんも小さい子供もいるし
玲奈ちゃんはつい先日結婚式に呼ばれたばかりだ

余計に混乱する
こういうのをなんというんだっけ

Wユー、じゃなくてWなんとかだ

変な笑いがこみ上げる


別に無理して出世したいわけじゃない

責任も大きくなるだろうし、元々管理とかそういうのに向かないタイプなのは承知をしている
ただ僕の人生がこのままコンロの外で終わるのはかなり忍びない、それは本当にそう思う


ならば、手に入れたこの火種

この手で握り潰すのは簡単だけど

社内を青い炎で燃やし尽くすほど

大事にしたい

千載一遇のチャンスが巡ってきた



           『大事にしたい』

9/20/2024, 3:41:24 PM