霧つゆ

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 「先生、私、花になりたい。」

 彼女はよく語る。将来のなりたい夢とか、こういう事をしたい。という現実的なものではなく、人間というもの以外の者になりたがった。
 時には

 「先生、私、鳥になりたい。」

 別のときには

 「先生、私、海になりたい。」

 などと、言った。全て理由を聞くが

 「先生が、よく花を見ているから。」
 「自由に、先生に会いに行けるから。」
 「先生が、見せてくれた海が綺麗だったから。」

 と、全て私関連の回答が帰ってきた。彼女は、夢を語る時、誰よりも目を輝かし、本当になれそうなほど、真っ直ぐ語った。
 決まった時間でしか、彼女には会えないが、彼女は会うたびに、夢を語った。

 ある夜、風がとても強かった日のこと、彼女の意識は殆ど残っていなかった。ご家族を呼び、皆で見守っている中、彼女は、口を開いた。

 「せんせぇ…わた…し………。」

 そして、彼女は夢を語る前に、この世から旅立ってしまった。
 結局、彼女は最後何を願ったのだろう。真相は誰ひとりわからなかった。
 病室のベッドが主人を無くし、ポツンと、ぬくもりを無くしていた。窓を開け、空に向かい彼女に問いた。

 「君は、何になりたかったのかい。」

 そう、言葉にした瞬間、病室に突風が入った。私の問に答えるように。

 「…あぁ…、そうか、君は…風になったんだね。」

 そう、答えると、彼女の答えは、風に乗って病室に運んだ。彼女の声のように、笑顔のように、優しく暖かい。

 「いつでも、遊びにおいで。君はもう自由なのだから。」

 病に縛られず、自由になった彼女は、風となり外を自由に、走り回っているように感じた。

No.6 _風に乗って_

4/29/2024, 12:49:18 PM