美佐野

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(素足のままで)(二次創作)

 クラリスはスバルに連れられ、散策に来ていた。
 春の里のそこここに植えられた桜の木は、里の外にも何本も植わっている。そのどれもが綺麗で華やかで、まるで夢の世界が広がっているかのようだった。先を行くスバルは、クラリスに見せたいものが多いのか、足取り軽くあっという間に視界から消える。かと思えば、ひょこっと木々や花の間から顔を覗かせる。
「本当に、スバルは楽しそうですね」
「クラリスさんと一緒ですから!」
 真っ直ぐな答えに、何だか面映くなるクラリスである。
 しばらくして、スバルの足が止まる。クラリスを一番連れて来たかった場所に到着したのだと、その声が上擦っている。そこには小川がさらさらと流れていた。
「…………!」
 澄んだ水の流れを挟むように、無数の草花が咲き乱れている。華やかな蝶が蜜を集め、少し深くなった川からは小さな魚が跳ねた。頬を撫でる風は優しく、こんな素敵な場所に来れた喜びがじわりじわりと心を満たしていく。
「そうだ」
と、スバルが何かを閃いたようだ。
「せっかくだから、入ってみませんか?」
「入……る?」
 何を言いたいのか判らない。スバルはそんなクラリスにイタズラっぽく笑いかけると、靴を脱いで水の中に足を浸した。
「きもちいー!」
「!?」
 川にそのまま入るなんて、俄には信じられない。何せクラリスの知る小川は、凍てつく冷たさで浸かった者の生命を容赦なく削り取る。ここはゼークスでも冬の里でもないと判ってはいても、スバルの行動に戸惑いを禁じ得ない。
 だが、あんまりスバルが楽しそうで、クラリスは恐る恐る靴を脱いだ。そっ、と、素足のままで水に入ってみる。
「気持ちいい……かも」
「でしょう!?」
 スバルの顔がぱっと輝く。そのままクラリスは手を取られ、両足で川に入ることになった。スバルはというと、クラリスをくるくると振り回しながら、終始楽しくて仕方がないと言わんばかりだ。
「子供みたい」
 呆れつつ、そんな彼を可愛いとも感じるクラリスだった。

8/26/2025, 10:49:33 AM