わをん

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『1年間を振り返る』

寒い寒い冬のこと。きょうだいたちと一緒にいたはずだが意識を取り戻した時にはおれ一匹になっていた。大きな生き物が檻の外からこちらを見つめて泣いている。
「みんなも助けたかったけれど、助かったのはあなたひとりだけだったのよ」
生き物の手が伸びてきて体を撫でる。母親のことを少し思い出し、涙の匂いにつられて少し泣いた。
あたたかで眠たくなる春のこと。いろいろなことを知った。大きな生き物はオカアサンの他にもオトウサンがいる。おれの名前がシロちゃんになった。檻の外に家という檻があって外に出られない。
「シロちゃんは、お外に出たい?」
少し考えるがあたたかくて眠たくなる。答えるのも面倒になってそのまま眠るとオカアサンは何も言わずに頭を撫でた。
暑い暑い夏のこと。暑くてなにもできなかった。家の中の一室だけが涼しくて、そこでなら遊びも付き合えるしゴハンも食べられる。デンキダイという言葉を何度か聞いたがそのうち聞かなくなった。今は外には出たくない。けれど外で暮らしている他の奴らはどうしているのかは気にかかった。
涼しくてやるせない秋のこと。涼しいと動きたくなくなるのでいやになっていたけれど、オトウサンと一緒に寝るとよく眠れることに気付いた。オトウサンのおなかには柔らかな部分があり、なぜだか母親を思い出して前脚で押したくなる。シロちゃんのために俺、痩せなくていいかなぁと言うオトウサンはオカアサンから怒られていたけれどおれには関係のないことだ。
また、寒い寒い冬が来た。とはいえこの部屋にはいつも暖かな風が吹く箱があるのであまり寒くない。きょうも箱の前を陣取っていると、外から帰ってきたオカアサンから嗅ぎ慣れない生き物の匂いがする。にーという、か弱い声も聞こえてくる。
「この子がもう少しここに慣れたら、シロちゃんにも紹介するね」
おれが昔入っていた檻を引っ張りだしたり毛布を出したりとオトウサンもオカアサンも忙しそうだ。おれと同じような奴がここで暮らすことになるのだろう。ならばおれはこの1年でわかったことをそいつに教えることになるのだろう。オカアサンよりオトウサンのほうに甘えるとオヤツをもらいやすいだとか、オフロに落ちるととんでもないことになるだとか、ツメキリと聞こえたら逃げたほうがいいだとか、そういうことを。全部外には無かったことばかりだ。きっと戸惑うし驚くだろうけれど、おれが大丈夫だったのだから安心しろと言ってやりたい。扉の向こうからもはや懐かしい外の匂いとにーという声が聞こえる。立ち上がって伸びをしたおれは暖かな箱から離れて扉の前に座り込みそのときを待つことにした。

12/31/2023, 8:49:45 AM