ドルニエ

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 それはたぐり寄せなければこないものでもあり、忍びやかな巾着切りのようにいつの間にか懐に滑り込んでくるものでもあり、臓腑が破裂するほど蹴りつけられるような思いをしてもあっけなくこぼれ落ちてくものでもあり、また怨霊のように、妖怪のようにべったりと貼りついているものでもあり。
 だからそんなにありがたがるものでないのかもしれないし、プロパガンダのような、気持ちの悪く美化されたものかもしれず、結局はよく分からないものらしいと、彼はそれを歳をとるごとに曖昧になっていくもののひとつに数えている。
 ただ、ひとつ確かだと思っていたのは、「馬鹿な選択をするいいわけになること」だったらしい。らしいというのは、もう彼もいい加減耄碌していて、まともに考えることができていないようだと、彼のわずかに残った仲間が教えてくれたからだ。そんな彼が逝ったのは、もう半世紀も前の話。だからもう、誰もそんなことはどうでもいいのだ。ひそかに。ひそかに。私が私の骨を撒いてもらったとき、その不確かなことも死に絶えるのだ。

7/24/2023, 1:32:49 PM