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狭い部屋


ずっと、狭い部屋の中にいたんだ。
その中の小さな世界で、狭い視野のまま生きてきたんだ。
でもある日、その部屋の鍵は勝手に開いて、外というものを知った。
とても広くて、大きくて、楽しそうで、わくわくして、それでいて、ちょっぴり怖かったんだ。
怖じ気づいて、また部屋に戻ろうと後ずさったとき、その人は言ったんだ。
「外に出てきてくれて、ありがとう。君の世界は、君が思っているよりも、もっと広いんだよ、楽しいんだよ、優しいんだよ。だから、どうかずっとそこにはいないで、もっと色んなものを見てほしいんだ。経験してほしいんだ。……そこから出るのが怖いのは、よくわかる。でもね、案外世界は怖くないんだよ。もし、それでも怖いというなら、一緒に行こう。君が怖くなくなるまで、そばにいるから」
ただ、ただ優しく、それでいて背中を押すように、腕を引っ張るように、その言葉は体を突き動かして、後ずさった足はいつの間にか一歩前に踏み出していた。
ずっと、狭い部屋の中にいたけれど、歩き出したその世界は優しくて、あたたかかった。

6/4/2023, 1:53:52 PM