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“突然の君の訪問。”


 扉の前に、人の気配がした気がした。手にしていた荷解き途中のキャリーケースを音がしないようにそっと床に置き、右手を忍ばせていたハンドガンへ伸ばした所で扉を爪先でそっと引っ掻くような音が聴こえてきた。その聞き覚えのあるリズムに、無意識に詰めていた息をほうと吐く。
 ハンドガンを備え付けのサイドテーブルに置いて、そのまま目の前の鏡で少し身だしなみを整える。彼に最後にあってから少し痩せてしまった気がする。目の下にくっきりと彫り込まれた様な隈はもうどうしようもない。
 軽く手ぐしで髪を整えながら鏡に向かって苦笑する。まるでデートに行く学生みたいじゃないか。今扉の前できっと仁王立ちしてる彼女とそういう関係だったのはもう10年以上前だというのに、いつだって彼女の前ではしゃんとしていなきゃいけない気分が抜けないのだ。

 シワの寄ったシャツを軽く伸ばして、気持ち背筋を伸ばして扉を開けるとやっぱり目の前の彼女は眉間に深いシワを寄せて、仁王立ちして俺を睨みあげてた。

 「……遅い」
 「まさか人が訪ねてくるなんて、思わなかったんだ」

 言外に匂わせた、連絡もなく来るのが悪いという俺の反論をしっかり汲み取った上でしっかりと無視をした彼女がズカズカと部屋に入っていく背中を追いかける。
 
 「きったない部屋だな」
 「ついさっき到着したばっかりなんだよ」

 ハイヒールの尖った爪先で容赦なく床に放り出された荷物を蹴飛ばしていく彼女はやっぱり容赦なく着ていたロングジャケットを鏡に投げかけて、そのままベッドに座り込んだ。置きっぱなしだったハンドガンも、鏡に映っていた冴えない俺の立ち姿もロングジャケットの下に隠れて見えなくなった。

8/28/2024, 12:11:28 PM