──雨の日の買い物。
ふいに湿った風が前髪を揺らして、少しだけ開けておいた窓の外に視線をやる。ついさっきまで薄い雲が広がっていた空から、細い雨が降り始めていた。
「強くなるかなあ」
この後、午後から友人と街に買い物をする予定がある。水を操る友人からしたら調子のいい天気なのかもしれないけど、自分からすると本が濡れてしまうのが難点だ。
でも一方で、雨の日の独特の土の匂いや青々とした緑は気に入っていたりする。最近晴れ続きだったから、久しぶりの雨は乾いた植物たちを蘇らせるかもしれない。
植物を使う自分の魔法にしても、かんかん照りの日より少し湿度が高い方がやりやすい。
「あめ、あめ、ふれ、ふれ……」
懐かしい童謡を口ずさみつつ、眼を閉じて耳を澄ませば、小さな水滴が地面や屋根や植物の葉を打つ音がする。学園の庭にある池では、蛙が元気に跳ねているだろうか。
「まあ、雨の日に出かけるのも良いかも」
こんな優しい雨なら、友人との外出を楽しませる一つの要素になるかもしれない。
椅子から立って出かける準備をしながら、細く開いていた窓を少し広げた。
(柔らかい雨)
11/6/2024, 12:59:03 PM