『誰よりも、ずっと』
戦争に向かう前、帰ってきたら結婚しようと約束をしていた。彼女は頬を染めて頷いて、出征の日には涙で目を腫らせて僕を見送った。胸に彼女の写真を忍ばせながら海を越えて過酷な戦場を目の当たりにすると、ここに来る前に抱いていた戦争に勝つという志は脆くも崩れ去った。みながみな生きて帰りたいと願いながら敵を屠り、敵に斃されて互いに数を擦り減らしていった。
帰りの船の中で彼女の写真を取り出して眺める。ところどころ折れ曲がり、血かなにかで汚れてしまっているが、僕はこれを拠り所に辛くも生き延びてきた。生きてさえいれば彼女に会える。きっと彼女も待っていてくれる。そう信じぬいて二度と戻れないかもしれないと何度も思った祖国の地を踏みしめることができた。
僕を待ち受けていたのは、あどけなさが薄れて美しく成長した彼女の泣き顔だった。ボロボロの兵卒服にも構わず彼女が胸に飛び込んてくる。
「誰よりもずっと、あなたを待っていました」
こんなにきれいな存在が腕の中に収まっていることが夢のようで、壊してしまわないかと恐ろしくなる。
「長い間持たせてしまって、すみません」
「……まったくです!」
体を離した涙化粧の彼女は口調とは裏腹に笑顔を見せた。
4/10/2024, 3:21:30 AM