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 仄かに漂う消毒液の匂い
 廊下の賑わいからかけ離れた静寂の部屋
 一定のリズムを刻む電子音
 ベッドに横たわり眠っている君

 「   」
 名前を呼んでも目は開かれない
 「   」
 手を握っても握り返されない
 「   」
 君の目が閉ざされて何日経ったのだろう

 近くにあったスツールに腰を下ろす
 どうにか暇を作ってこの部屋を訪れているが
 君の経過はあまり良くないらしい

 君の両親と鉢合わせることもあるが
 会釈だけして何の言葉も発せてない
 そもそもまだ恋人の段階で
 お見舞いに来させてもらえてること自体が有難い

 本当は真っ先に駆け付けたかった
 君がどんな苦しい状態なのか
 先生から直接聞きたかった

「目が覚めたら渡したいものがあるんだ」
「こっちの都合で悪いんだけど」
「大事な時真っ先に駆け付けられる立場が欲しい」

 目を瞑って君の手を自分の頬に当てる
 ここに確かに君の温もりがある
 それに安心して涙が滲んできた



 君の指が僅かに反応したことに気づくのは
 まだしばらく先の話


『病室』

8/3/2024, 1:12:43 AM