丘の上の美術館
頂上に大きな象の銅像が立っていた。
その足元に、息子と私はシートを敷いてうつ伏せに寝転んだ。
「ママーあの本読んで」
「車の?」
「そう!」
お気に入りの重機の絵本だ。
毎日毎晩読まされたおかげで完全に覚えてしまった。
頭の中で表紙をめくる。
「ええと、ざっくりぶうぶうがたがたごろろ…」
読みながら仰向けになった私の目に、強い日差しが飛び込んで来た。思わず目を閉じる。そしてまたゆっくりと目を開けた。
太陽が象の鼻の先端にぴったり位置している。まるで象が鼻を高く持ち上げて、空に向かって太陽を掲げているように見えた。
眩い光がくっきりと象の影を作り出し、私たち親子を包み込んでいる。
その時遠くの方からボーーッという音が風に乗って微かに聞こえてきた。汽笛だ。
そういえば今朝のニュース言ってたっけ。外国の大型船舶の話。
こんな所まで汽笛が聞こえるなんて、
今日は空気が澄んでいるんだなあ。
「見てごらん。ゾウさんの鼻の先。」
仰向けのまま、私は空を指差した。
息子はピョコッと私の肩に頭を乗せてきた。柔らかな髪の毛が当たってくすぐったい。
そうしてまるでスコープでも覗くように、私の指の先を見つめた。
そう。この子はいつも、示した先をできるだけ正確に見ようとする。
「あっ、ゾウさんがお鼻でお日さまをつかまえてる!お日さまってつかまえられるんだね!でもお鼻だいじょぶかな?ゾウさーん!お鼻、熱くないかーい?ゾウさああん!」
小さな両手を口に添え、大きな声で何度も何度も訊いている。
その時風が吹いて、私たちのシートをフワッと優しく浮かせた。
「ママ!今ゾウさんがほーい!って言ったよ。風さんもお返事してくれたんだよね!」
叫ぶ息子を横にして、こんな絵本みたいな現実って本当にあるんだなと、
しばらくの間茫然としていた。
そんな記憶。
…今もまさにそうです。
10/22/2023, 9:45:43 AM