柊 蒼真

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#冬になったら

【温まる】

「冬になったら、温泉に行きたいね」

母がそう言った。
前々から旅行に行きたいと話していたが、コロナ禍ということもあり、自粛していた。

蜜柑を頬張りながら弟は言う。

「俺やだ。寒いのに外出たくないんだけど…」

弟は寒いのが苦手だ。
冬はこたつに入ってほとんど動かない。
私も寒いのは苦手だが、外出したいとは思う。
外出自粛をして体が鈍っているし、
温泉なんてめったに行かないからだ。

「いいじゃん、行こうよ温泉」

母は嬉しそうに笑った。

「露天風呂に入りたい。あと…星がみたい!」

「露天風呂かぁ、星は山とか暗い場所でみたいな」

「温泉入って、体の内側から温まりたいなー」

母と話をしていると父が帰ってきた。

「ただいま。何の話してるの?」

「温泉行きたいねって話」

「良いね。みんなで楽しんでおいでよ」

「え、父さん行かないの?」

「仕事忙しいし、たまには1人になりたい」

弟は父の言葉を聞いて意見を変える。

「俺行く。温泉入りたーい」

弟は父が嫌いだ。一緒にいたくないらしい。

「行きなよ。お土産話、楽しみにしてるから」

温泉旅行には、私と母と弟で行くことになった。

次の日の朝、私は父に聞いてみた。

「父さん、本当にいいの?」

「いいんだよ、楽しんでおいでよ」

「うん…ねぇ、父さん」

「なに?」

「冬になったら何したい?」

「家族の笑顔がみたいな。それで満足だよ」

「そっか。楽しんでくるよ」

父は嬉しそうに笑った。
私は、父の笑顔をみて心が温まる気がした。

11/17/2022, 10:38:46 AM