【落ちていく】
恋というものは。唐突に、止める間もなく落ちていくものなのだと、私は知った。
これに比べたら過去に初恋だと思っていたものは、なんと淡く頼りなく可愛らしい想いだったことか。
相手のことが頭から離れず、一日中ぽかぽかと暖かな気分で、つい顔がにやけ、何をしていても心ここにあらずといった具合で。床や地面まで柔らかくなってしまったんじゃないかというくらい、気持ちがふわふわしていた。嬉しくて幸せで、実際に五センチくらい浮いていたとしても、不思議じゃないような気がした。
これは駄目だと私は思った。好きだという気持ちが膨れ上がって破裂してしまう。どうにかして外に出さなければ。あの人の小さめの手や、笑うとはっきりしわができる目尻や、並んだ時の私より低い頭の位置、そんなものばかり脳裏に浮かんで、何にも集中できない。
連絡するのに決意も葛藤もなかった。とにかく会いたい。会うだけならいつでも会えると思っていた。実際に、すぐに返事があって、カラオケにでも行こうということになった。
密室で二人きりになることをなんとも思っていなかった。会えることがただひたすら幸せだと思えた。声を聞けるだけで風船みたいに飛べそうだった。
想いを伝えるのに恐怖はなかった。とにかく言わないと。破裂してしまうから伝えないと。どれくらい好きか。どんなところが好きか。恥ずかしいくらい必死に言葉を重ねて、結局、自分が何を言ったかなんて、ほとんど覚えていなかった。
返事の言葉すら思い出せない。ただ、交際を申し込んで、承諾してもらえた……私が覚えているのはその事実だけ。
あとになって、もし振られていたらどうするつもりだったのかと聞かれた。二人きりでカラオケ中だったわけで、おそらく気まずかったに違いない。けど。どういうわけか、あの時の私には、振られるという可能性がまったく頭になかったのだ。
きっと、私の心からの気持ちが『付き合いたい』ではなく『伝えたい』だったから。伝えた後のことについては何も考えていなかったのだろう。結果としてうまくいって、本当に良かった。
11/23/2024, 11:02:28 PM